2021年06月17日
編成の話。
山岳猟兵の連隊以下の編制について、歩兵科との比較を交えながら紹介してみようと思う。
連隊を構成するのは3つの山岳猟兵大隊である。一般の歩兵師団の場合、1個大隊は3個小銃中隊と1個機関銃中隊の4個中隊から構成されるが、山岳猟兵大隊の場合はこれに重火器中隊が加わる。
(歩兵)
連隊本部
― 本部中隊
― 第1歩兵大隊(第1~4中隊、大隊段列)
― 第2歩兵大隊(第5~8中隊、大隊段列)
― 第3歩兵大隊(第9~12中隊、大隊段列)
― 歩兵砲中隊(第13中隊)
― 対戦車猟兵中隊(第14中隊)
― 連隊段列
(山岳猟兵)
連隊本部
― 本部中隊
― 第1山岳猟兵大隊(第1~5中隊、大隊段列)
― 第2山岳猟兵大隊(第6~10中隊、大隊段列)
― 第3山岳猟兵大隊(第11~15中隊、大隊段列)
― 対戦車猟兵中隊(第16中隊)
― 連隊段列
歩兵大隊の第4第8第12中隊は機関銃中隊である。一方、各山岳猟兵大隊では第4第9第14中隊が機関銃中隊であり、第5第10第15中隊が重火器中隊である。山岳猟兵中隊は3個小銃小隊、1個機関銃分隊、1個軽迫撃砲班、中隊段列で構成される。また山岳機関銃中隊は3個機関銃小隊と1個中迫撃砲小隊、中隊段列から構成されている。
山岳猟兵連隊内の各重火器中隊は歩兵砲に類する兵器を扱ってはいるが、その編成は歩兵科の歩兵砲中隊とは根本的に異なる。歩兵科の歩兵砲中隊は歩兵大隊の外に存在し、歩兵連隊の中の13番目の中隊となっている。この中隊は3つの歩兵砲小隊と通信小隊を内包しており、山岳猟兵大隊の重火器中隊は歩兵砲中隊の持つ歩兵砲小隊を連隊内の3つの大隊に分配してそれぞれを膨らませた形となっている。重火器中隊は1つの軽山岳歩兵砲小隊を核として、通信小隊、工兵小隊、対戦車小隊、中隊段列が付属し、大戦中期には重迫撃砲小隊が加わる。
このほか山岳猟兵連隊の本部中隊の編制についてだが、この中隊には中隊本部班、工兵小隊、通信小隊、中隊段列が含まれる。資料によっては、あと1個小隊が本部中隊に存在しているとあるが、今のところはその小隊の役割が判然としない。
手元に山岳師団が編成されたばかりの頃の中隊編成表があるので、比較的初期の歩兵中隊の編制と比べつつこっちも紹介してみる。
中隊本部には計15名、乗馬本分者が2名、兵員が9名、駄獣担当者が4名と駄獣4頭で編成されている。時期、部隊によって歩兵中隊にも山岳猟兵中隊にもその編制において構成人数の増減があるものの、その内訳は一般的な歩兵中隊本部班に準ずるものと考えられ、少なくとも中隊長、本部班長、伝令兵6名、従卒1名、衛生下士官1名、衛生兵1名が存在するものと思われる。中隊は3個の小隊を基幹戦力とし、各小隊は1個小隊本部班と1個軽迫撃砲班、3個小銃分隊を持っており、小隊内の分隊の数は歩兵科と比べ1個分少ない。小隊本部班は7名、軽迫撃砲班は5名と駄獣2頭である。歩兵の一般的な小隊本部の内訳は小隊長、小隊本部班長、伝令兵3名、衛生兵1名、御者1~2名、馬車1~2両、馬車あたり馬2頭となっており、中隊本部と同じくその規模はあまり変わらない。その内訳もほぼ同じと考えていいだろう。軽迫撃砲班については、歩兵小隊内の軽迫撃砲班は3名で編成されているが、山岳猟兵小隊では5名と駄獣2頭である。軽迫撃砲本体と備品、砲弾の輸送のために駄獣が追加されたという構造なのだろう。
小隊編成の基幹となる山岳猟兵分隊の編制に触れておく。分隊長、副分隊長を含んだ6名の小銃班、4名の機関銃班、駄獣担当者2名と駄獣2頭がその内訳である。次に機関銃分隊の編制についてだが、歩兵科の小銃中隊で直接戦闘に関わるのは小銃分隊、軽迫撃砲班、対戦車銃分隊の三種で、その編成に重機関銃分隊は存在していない。この編成方法は中隊の保有する歩兵戦力と火力を向上させるための措置だと思われ、機関銃分隊は19名もの兵員と駄獣6頭を擁している。歩兵科の中隊編成表に存在する対戦車銃分隊6名の代替と表現するにはあまりに規模が大きく、山岳猟兵科と歩兵科の小銃中隊に所属する戦闘要員の数を比較すると、若干ではあるが前者の人数が多くなっている。
最後に段列についてだが、未だによくわからんので触れない。まあ山岳猟兵の段列ごっこやりたいとか言う変態なんておらんやろ。
連隊を構成するのは3つの山岳猟兵大隊である。一般の歩兵師団の場合、1個大隊は3個小銃中隊と1個機関銃中隊の4個中隊から構成されるが、山岳猟兵大隊の場合はこれに重火器中隊が加わる。
(歩兵)
連隊本部
― 本部中隊
― 第1歩兵大隊(第1~4中隊、大隊段列)
― 第2歩兵大隊(第5~8中隊、大隊段列)
― 第3歩兵大隊(第9~12中隊、大隊段列)
― 歩兵砲中隊(第13中隊)
― 対戦車猟兵中隊(第14中隊)
― 連隊段列
(山岳猟兵)
連隊本部
― 本部中隊
― 第1山岳猟兵大隊(第1~5中隊、大隊段列)
― 第2山岳猟兵大隊(第6~10中隊、大隊段列)
― 第3山岳猟兵大隊(第11~15中隊、大隊段列)
― 対戦車猟兵中隊(第16中隊)
― 連隊段列
歩兵大隊の第4第8第12中隊は機関銃中隊である。一方、各山岳猟兵大隊では第4第9第14中隊が機関銃中隊であり、第5第10第15中隊が重火器中隊である。山岳猟兵中隊は3個小銃小隊、1個機関銃分隊、1個軽迫撃砲班、中隊段列で構成される。また山岳機関銃中隊は3個機関銃小隊と1個中迫撃砲小隊、中隊段列から構成されている。
山岳猟兵連隊内の各重火器中隊は歩兵砲に類する兵器を扱ってはいるが、その編成は歩兵科の歩兵砲中隊とは根本的に異なる。歩兵科の歩兵砲中隊は歩兵大隊の外に存在し、歩兵連隊の中の13番目の中隊となっている。この中隊は3つの歩兵砲小隊と通信小隊を内包しており、山岳猟兵大隊の重火器中隊は歩兵砲中隊の持つ歩兵砲小隊を連隊内の3つの大隊に分配してそれぞれを膨らませた形となっている。重火器中隊は1つの軽山岳歩兵砲小隊を核として、通信小隊、工兵小隊、対戦車小隊、中隊段列が付属し、大戦中期には重迫撃砲小隊が加わる。
このほか山岳猟兵連隊の本部中隊の編制についてだが、この中隊には中隊本部班、工兵小隊、通信小隊、中隊段列が含まれる。資料によっては、あと1個小隊が本部中隊に存在しているとあるが、今のところはその小隊の役割が判然としない。
手元に山岳師団が編成されたばかりの頃の中隊編成表があるので、比較的初期の歩兵中隊の編制と比べつつこっちも紹介してみる。
中隊本部には計15名、乗馬本分者が2名、兵員が9名、駄獣担当者が4名と駄獣4頭で編成されている。時期、部隊によって歩兵中隊にも山岳猟兵中隊にもその編制において構成人数の増減があるものの、その内訳は一般的な歩兵中隊本部班に準ずるものと考えられ、少なくとも中隊長、本部班長、伝令兵6名、従卒1名、衛生下士官1名、衛生兵1名が存在するものと思われる。中隊は3個の小隊を基幹戦力とし、各小隊は1個小隊本部班と1個軽迫撃砲班、3個小銃分隊を持っており、小隊内の分隊の数は歩兵科と比べ1個分少ない。小隊本部班は7名、軽迫撃砲班は5名と駄獣2頭である。歩兵の一般的な小隊本部の内訳は小隊長、小隊本部班長、伝令兵3名、衛生兵1名、御者1~2名、馬車1~2両、馬車あたり馬2頭となっており、中隊本部と同じくその規模はあまり変わらない。その内訳もほぼ同じと考えていいだろう。軽迫撃砲班については、歩兵小隊内の軽迫撃砲班は3名で編成されているが、山岳猟兵小隊では5名と駄獣2頭である。軽迫撃砲本体と備品、砲弾の輸送のために駄獣が追加されたという構造なのだろう。
小隊編成の基幹となる山岳猟兵分隊の編制に触れておく。分隊長、副分隊長を含んだ6名の小銃班、4名の機関銃班、駄獣担当者2名と駄獣2頭がその内訳である。次に機関銃分隊の編制についてだが、歩兵科の小銃中隊で直接戦闘に関わるのは小銃分隊、軽迫撃砲班、対戦車銃分隊の三種で、その編成に重機関銃分隊は存在していない。この編成方法は中隊の保有する歩兵戦力と火力を向上させるための措置だと思われ、機関銃分隊は19名もの兵員と駄獣6頭を擁している。歩兵科の中隊編成表に存在する対戦車銃分隊6名の代替と表現するにはあまりに規模が大きく、山岳猟兵科と歩兵科の小銃中隊に所属する戦闘要員の数を比較すると、若干ではあるが前者の人数が多くなっている。
最後に段列についてだが、未だによくわからんので触れない。まあ山岳猟兵の段列ごっこやりたいとか言う変態なんておらんやろ。
2021年06月16日
山岳対戦車猟兵中隊について。
山岳対戦車猟兵中隊(Gebirgspanzerjägerkompanie)(※1)は山岳猟兵大隊において、より密接な対戦車戦力となる。山岳地における機動性は、地形的特徴に由来する機械化の限界により制限されたものとなり、対戦車砲の展開は渓谷や峠では街道上とその近辺に限定される。中戦車や重戦車の行動が可能な地形へ展開することは可能だが、軽戦車の出現する可能性がある山地の斜面や深い峡谷での展開には困難を伴うことが多い。ひとたび街道から離れると、ほぼ確実に分解した砲の部品を人力によって輸送する必要に迫られる。その際、砲の開脚架は可能な限り平坦に近い発射位置を必要とし、車輪と砲架の位置のわずかな高低差が砲身の上下操作に支障をきたすことに留意しなければならない。
山岳対戦車中隊の指揮官は、戦車への防衛に関するすべての問題について連隊司令官の顧問を務める。中隊指揮官とその本部班、付属する通信班は登山技術を習得しなければならないが、同時にその指揮所は自動車の運用が容易な位置である必要がある。
小隊指揮官は敵の行動を阻害する環境を形成し、同時に自隊の作戦展開がより有利なものとなるよう指揮下の小隊を運用することが望ましく、戦車の戦闘技術を熟知し、適切に障害物を構築する手法に習熟していなければならない。もし小隊が独立して運用されている場合には、小隊指揮官は必要となる弾薬、装備、食糧の調達に関して責任を負う。小隊指揮官と小隊本部要員は登攀の困難な斜面を登って観測所を設置できるように、陸軍の山岳ガイドとして認定されなければならない(※2)。狭い峡谷を前進する際、行軍が始まったときに砲が他隊の前進を妨げてしまう恐れがあるため、砲の配置は隊列の中で先んじている必要がある。隊が行軍している街道上に敵の装甲車両の存在が報告された場合、砲を正面に展開して隊列を短縮することが望ましい。この際、小隊指揮官は砲の適切な配置転換を監督する。雪はその除去のために道路を混雑させて小隊の行動を阻害し、路上の氷はしばしば行軍速度の低下につながる。
山岳対戦車猟兵中隊がまとまって戦闘に参加することは稀であり、通常は小隊を単位として運用される。先述のとおり、通常はその戦闘区域は非常に限定的となり、小隊は接近する敵の布陣に応じて砲の位置を決定する。砲の運用班は班長の指揮のもと、急な斜面を可能な限り短い距離で砲を運び上げ、複雑な地形であっても速やかに砲を展開し発射体制を整えることが望ましい。そして瞬間的にしか視認できない高速で移動する目標に対し、直接照準によって砲撃を行う。彼らがその任務の必要上、対戦車障害物の構築も行うことはすでに述べたが、要所において大規模な障害物を構築するためにしばしば工兵が随行する。対戦車小隊の内包する軽機関銃班の任務は主として対戦車砲の守備であるが、そのほか対戦車障害物の守備も行う。
小隊指揮官は射撃陣地を警護する山岳歩兵の存在を常時期待することはできない。射撃位置への移動は少なくない時間を要し、また接近する敵部隊の観測も困難であるため、早期に射撃体勢を整えることが必要となる。ゆえに、対戦車砲は障害物の後方に隠蔽された牽引機と接合したままにすることはできない。
幅の広い峡谷や広範な台地において、小隊は平地での行動則に準じて展開する。中隊指揮官が一元的な哨戒部隊を設置することはごく稀であり、各小隊は担当区域の中で自身の哨戒班を編成し運用しなければならない。哨戒班は通常、中隊の本部要員と通信班によって支援される。また、渓谷における攻撃のために、砲は偵察の後、合流地点かまたは梯状の射撃位置へと移動することが望ましい。そして防衛には敵戦車が接近を可能とする進路の周到な偵察と渓谷内における自隊の後方と側面への厳重な警戒が必要となる。この地形の困難さは通常、戦闘中の小隊の移動を妨げるからである。
※1: 山岳猟兵連隊の内包する山岳戦車猟兵中隊はあくまで同一兵科として存在し、師団内に存在する山岳戦車猟兵大隊の構成中隊とは別のものである。
※2: 山岳ガイドの訓練期間や資格獲得の困難さを勘案すると、小隊指揮官とその本部要員の全てが山岳ガイド資格を有していたとは考えにくい。あくまで山岳ガイドの有資格者を小隊指揮官か小隊本部要員に含めるという意味なのではないだろうか。
山岳対戦車中隊の指揮官は、戦車への防衛に関するすべての問題について連隊司令官の顧問を務める。中隊指揮官とその本部班、付属する通信班は登山技術を習得しなければならないが、同時にその指揮所は自動車の運用が容易な位置である必要がある。
小隊指揮官は敵の行動を阻害する環境を形成し、同時に自隊の作戦展開がより有利なものとなるよう指揮下の小隊を運用することが望ましく、戦車の戦闘技術を熟知し、適切に障害物を構築する手法に習熟していなければならない。もし小隊が独立して運用されている場合には、小隊指揮官は必要となる弾薬、装備、食糧の調達に関して責任を負う。小隊指揮官と小隊本部要員は登攀の困難な斜面を登って観測所を設置できるように、陸軍の山岳ガイドとして認定されなければならない(※2)。狭い峡谷を前進する際、行軍が始まったときに砲が他隊の前進を妨げてしまう恐れがあるため、砲の配置は隊列の中で先んじている必要がある。隊が行軍している街道上に敵の装甲車両の存在が報告された場合、砲を正面に展開して隊列を短縮することが望ましい。この際、小隊指揮官は砲の適切な配置転換を監督する。雪はその除去のために道路を混雑させて小隊の行動を阻害し、路上の氷はしばしば行軍速度の低下につながる。
山岳対戦車猟兵中隊がまとまって戦闘に参加することは稀であり、通常は小隊を単位として運用される。先述のとおり、通常はその戦闘区域は非常に限定的となり、小隊は接近する敵の布陣に応じて砲の位置を決定する。砲の運用班は班長の指揮のもと、急な斜面を可能な限り短い距離で砲を運び上げ、複雑な地形であっても速やかに砲を展開し発射体制を整えることが望ましい。そして瞬間的にしか視認できない高速で移動する目標に対し、直接照準によって砲撃を行う。彼らがその任務の必要上、対戦車障害物の構築も行うことはすでに述べたが、要所において大規模な障害物を構築するためにしばしば工兵が随行する。対戦車小隊の内包する軽機関銃班の任務は主として対戦車砲の守備であるが、そのほか対戦車障害物の守備も行う。
小隊指揮官は射撃陣地を警護する山岳歩兵の存在を常時期待することはできない。射撃位置への移動は少なくない時間を要し、また接近する敵部隊の観測も困難であるため、早期に射撃体勢を整えることが必要となる。ゆえに、対戦車砲は障害物の後方に隠蔽された牽引機と接合したままにすることはできない。
幅の広い峡谷や広範な台地において、小隊は平地での行動則に準じて展開する。中隊指揮官が一元的な哨戒部隊を設置することはごく稀であり、各小隊は担当区域の中で自身の哨戒班を編成し運用しなければならない。哨戒班は通常、中隊の本部要員と通信班によって支援される。また、渓谷における攻撃のために、砲は偵察の後、合流地点かまたは梯状の射撃位置へと移動することが望ましい。そして防衛には敵戦車が接近を可能とする進路の周到な偵察と渓谷内における自隊の後方と側面への厳重な警戒が必要となる。この地形の困難さは通常、戦闘中の小隊の移動を妨げるからである。
※1: 山岳猟兵連隊の内包する山岳戦車猟兵中隊はあくまで同一兵科として存在し、師団内に存在する山岳戦車猟兵大隊の構成中隊とは別のものである。
※2: 山岳ガイドの訓練期間や資格獲得の困難さを勘案すると、小隊指揮官とその本部要員の全てが山岳ガイド資格を有していたとは考えにくい。あくまで山岳ガイドの有資格者を小隊指揮官か小隊本部要員に含めるという意味なのではないだろうか。
2021年06月16日
山岳猟兵大隊について。
(1) 総則
通常において山岳猟兵大隊(Gebirgsjägerbataillon)は独立した任務のために採用されている最大の戦術単位である(※1)。大隊は適宜、隷下に存在する重火器の他、山岳砲兵科、山岳工兵科、山岳通信科、補給段列の協力を得て強化される(※2)。大隊指揮官はその人格をもって指揮下の兵員に範を示し、その山岳地での経験によって啓発された兵員の精神と能力は山岳地での戦いにおいて必須のものと言える。また、山岳地帯特有のものである地形の困難さと部隊行動の時機に関して充分な知識と感覚を持っている必要がある。
大隊は通常では縦隊を形成し、状況に応じて前方、側面、後方に哨戒部隊を展開して行軍する。状況によっては稀に複数の縦隊に分かれて行軍することがあるが、その際にそれぞれの隊は独立して戦闘を行う方法を確立しておかねばならない。大隊が奇襲を成功させるためには夜間や霧の中での行軍が必要となることがあるが、そのためには優れた指揮と徹底的な事前偵察を欠くことはできない。山岳地帯において攻撃を前提とした接近が可能な複数のルートを認識し偵察することが威力偵察の目的である。その目的を達成すべく戦術コマンドの技術が活用される。
多くの場合、攻撃における初期段階の配置が重要なのは決定的である。重火器の展開にはある程度の時間を要するため、その支援射撃の中断が深刻なものにならないよう配置転換には細心の注意が必要となる。大隊指揮官は、大隊の配置転換を支援するためにのみ重火器中隊の予備戦力を抽出する。攻撃において、重機関銃や重火器を統制してその火力を集中させることが目的となるが、地形によっては末端の小隊や分隊、さらにはただ一門の迫撃砲すら尽力を要求される。
山岳地帯に展開している個々の中隊には、平地よりも頻繁に重歩兵火器(heavy infantry weapons)を付属させる必要がある。大隊の指揮下にある山砲(mountain artillery)は攻撃に際し、可能な限り遅滞なく密接な支援を行う。追加の弾薬を配分することによってその効果を増す個々の銃砲は、攻撃の開始時にあっても正面に展開される。
砲兵指揮官(※3)および大隊隷下のすべての重火器との交信を確実なものとし、大隊指揮官は攻撃の進展に応じて必要な場所で砲火力を発揮させねばならない。予備戦力は下り坂での攻撃を開始することができる高所やその付近に伏せておくことが望ましい。
機動性の高い山岳歩兵は山岳地帯での追撃に特に適している。追撃においては大胆な躍進により敵の抵抗戦力による妨害の心配をせずに部隊は突撃可能であるが、同時に味方の支援射撃を伴わない場合が多いため、大隊は最善となる支援を適宜に行うことにより追撃部隊の戦闘能力を発揮させる。
大隊が防衛側にあるとき、指揮の責任、予備戦力の位置、重火器の配置を明確に取り決めておくことが最も重要となる。山岳地での防御点の面前において多数存在するはずである陣地の瑕疵となる間隔や角度へは常に特別な警戒を怠らないことが求められる。重機関銃、迫撃砲、そして個々の重火器は必要に応じてその側面を防御する必要がある。敵に発見された重火器の迅速な陣地転換のためにあらかじめ予備の発砲位置を準備しておかねばならない。
迅速かつ信頼できる観測および連絡の担当部署は、敵の接近を厳重に監視していなければならない。主要抵抗線付近で自軍の積極的な投入が必要なく、交通の要衝となる位置に展開可能な場合、大隊指揮官は予備戦力を編成する。このとき、小集団を形成して防衛的配置に分散させた方が有利となることも有り得る。
(2) 特殊編成の山岳小銃中隊
ドイツ軍の山岳兵科においても大隊は独立して行動が可能な最小の戦術単位だが、その作戦展開上で特殊編成の山岳小銃中隊(Verstärkte Gebirgsjägerkompanie)が頻繁に運用された形跡がある。この中隊は、戦域が大部隊の行動を妨げる細長く複雑な地形を持ち、且つ通信にも非常な困難が伴う場合に運用され、山岳歩兵大隊の指揮官が重機関銃、81mmおよび120mm迫撃砲、28/20mm対戦車銃、軽山岳歩兵砲、工兵といった大隊内の組織や兵器を任意に指揮下の小銃中隊に追加して上級部隊に頼らない作戦遂行能力を持たせたものである。具体的な編成例や規定等に関する資料を見つけることができず、また存在するかも確証が持てないが、あくまで一時的な措置であると考えられ、その編成も一定ではなく大隊指揮官の裁量次第と思われる。
※1: 大隊のより上位にあたる山岳猟兵連隊は部隊管理において実際的な効果を持つ単位である。ドイツ軍の規定書に重火器中隊の戦術運動に関する言及が欠落しているのは、規定書が出版された時点では重火器中隊が大隊の一部ではなかったためである。
※2: 広義での山岳猟兵に関する規定書が編纂された後も対戦車砲や歩兵砲、120mm迫撃砲、工兵小隊が山岳歩兵大隊で機能し始めるなど、装備の更新や組織改編が行われたために部隊、時期、戦域によって必要な補強の程度が異なる可能性がある。
※3: 原文ではartillery commanderとあるが、これは他兵科の砲兵指揮官ではなく重火器全般の指揮官を指すと捉えることができ、重火器中隊の指揮官を指すのかもしれない。
通常において山岳猟兵大隊(Gebirgsjägerbataillon)は独立した任務のために採用されている最大の戦術単位である(※1)。大隊は適宜、隷下に存在する重火器の他、山岳砲兵科、山岳工兵科、山岳通信科、補給段列の協力を得て強化される(※2)。大隊指揮官はその人格をもって指揮下の兵員に範を示し、その山岳地での経験によって啓発された兵員の精神と能力は山岳地での戦いにおいて必須のものと言える。また、山岳地帯特有のものである地形の困難さと部隊行動の時機に関して充分な知識と感覚を持っている必要がある。
大隊は通常では縦隊を形成し、状況に応じて前方、側面、後方に哨戒部隊を展開して行軍する。状況によっては稀に複数の縦隊に分かれて行軍することがあるが、その際にそれぞれの隊は独立して戦闘を行う方法を確立しておかねばならない。大隊が奇襲を成功させるためには夜間や霧の中での行軍が必要となることがあるが、そのためには優れた指揮と徹底的な事前偵察を欠くことはできない。山岳地帯において攻撃を前提とした接近が可能な複数のルートを認識し偵察することが威力偵察の目的である。その目的を達成すべく戦術コマンドの技術が活用される。
多くの場合、攻撃における初期段階の配置が重要なのは決定的である。重火器の展開にはある程度の時間を要するため、その支援射撃の中断が深刻なものにならないよう配置転換には細心の注意が必要となる。大隊指揮官は、大隊の配置転換を支援するためにのみ重火器中隊の予備戦力を抽出する。攻撃において、重機関銃や重火器を統制してその火力を集中させることが目的となるが、地形によっては末端の小隊や分隊、さらにはただ一門の迫撃砲すら尽力を要求される。
山岳地帯に展開している個々の中隊には、平地よりも頻繁に重歩兵火器(heavy infantry weapons)を付属させる必要がある。大隊の指揮下にある山砲(mountain artillery)は攻撃に際し、可能な限り遅滞なく密接な支援を行う。追加の弾薬を配分することによってその効果を増す個々の銃砲は、攻撃の開始時にあっても正面に展開される。
砲兵指揮官(※3)および大隊隷下のすべての重火器との交信を確実なものとし、大隊指揮官は攻撃の進展に応じて必要な場所で砲火力を発揮させねばならない。予備戦力は下り坂での攻撃を開始することができる高所やその付近に伏せておくことが望ましい。
機動性の高い山岳歩兵は山岳地帯での追撃に特に適している。追撃においては大胆な躍進により敵の抵抗戦力による妨害の心配をせずに部隊は突撃可能であるが、同時に味方の支援射撃を伴わない場合が多いため、大隊は最善となる支援を適宜に行うことにより追撃部隊の戦闘能力を発揮させる。
大隊が防衛側にあるとき、指揮の責任、予備戦力の位置、重火器の配置を明確に取り決めておくことが最も重要となる。山岳地での防御点の面前において多数存在するはずである陣地の瑕疵となる間隔や角度へは常に特別な警戒を怠らないことが求められる。重機関銃、迫撃砲、そして個々の重火器は必要に応じてその側面を防御する必要がある。敵に発見された重火器の迅速な陣地転換のためにあらかじめ予備の発砲位置を準備しておかねばならない。
迅速かつ信頼できる観測および連絡の担当部署は、敵の接近を厳重に監視していなければならない。主要抵抗線付近で自軍の積極的な投入が必要なく、交通の要衝となる位置に展開可能な場合、大隊指揮官は予備戦力を編成する。このとき、小集団を形成して防衛的配置に分散させた方が有利となることも有り得る。
(2) 特殊編成の山岳小銃中隊
ドイツ軍の山岳兵科においても大隊は独立して行動が可能な最小の戦術単位だが、その作戦展開上で特殊編成の山岳小銃中隊(Verstärkte Gebirgsjägerkompanie)が頻繁に運用された形跡がある。この中隊は、戦域が大部隊の行動を妨げる細長く複雑な地形を持ち、且つ通信にも非常な困難が伴う場合に運用され、山岳歩兵大隊の指揮官が重機関銃、81mmおよび120mm迫撃砲、28/20mm対戦車銃、軽山岳歩兵砲、工兵といった大隊内の組織や兵器を任意に指揮下の小銃中隊に追加して上級部隊に頼らない作戦遂行能力を持たせたものである。具体的な編成例や規定等に関する資料を見つけることができず、また存在するかも確証が持てないが、あくまで一時的な措置であると考えられ、その編成も一定ではなく大隊指揮官の裁量次第と思われる。
※1: 大隊のより上位にあたる山岳猟兵連隊は部隊管理において実際的な効果を持つ単位である。ドイツ軍の規定書に重火器中隊の戦術運動に関する言及が欠落しているのは、規定書が出版された時点では重火器中隊が大隊の一部ではなかったためである。
※2: 広義での山岳猟兵に関する規定書が編纂された後も対戦車砲や歩兵砲、120mm迫撃砲、工兵小隊が山岳歩兵大隊で機能し始めるなど、装備の更新や組織改編が行われたために部隊、時期、戦域によって必要な補強の程度が異なる可能性がある。
※3: 原文ではartillery commanderとあるが、これは他兵科の砲兵指揮官ではなく重火器全般の指揮官を指すと捉えることができ、重火器中隊の指揮官を指すのかもしれない。
2021年06月15日
山岳重火器中隊について。
山岳歩兵大隊は一般の歩兵大隊と比べて戦力と火力の増強を受けているが、それはひとえに重火器中隊(Gebirgsschwerekompanie)の存在に依るものである。この中隊は中隊本部、通信班、中隊段列、それに基幹戦力として軽山岳歩兵砲小隊、工兵小隊、対戦車小隊で構成されている。重火器中隊に集中している火力は、連隊が持つ歩兵火器の範疇において、山岳歩兵大隊の中でも非常に独立性が高いものである。
軽山岳歩兵砲小隊は、二門の75mm軽山岳歩兵砲(7.5cm l.Geb.I.G.18)を装備している。この兵器は、鋼製の縁取りを持つ車輪を備えた75mm軽山岳歩兵砲(7.5cm l.I.G.18)を山岳地向けに改装したものである。この砲が射撃に用いるのは榴弾(7.5cm Igr.18.Al)であり、二動式信管(※1)(Az.23.n/A)かまたは複動式信管(※2)(Dopp.Z.S/60s)かを選択できる。ドイツ軍では一般に砲弾の炸薬にアルミニウムが含まれている場合、それを示すために型番に"AI"の文字を加える。これは山岳砲兵の用いる砲弾にも一貫して見られる特徴である。炸薬に含まれたアルミニウムは炸裂時の閃光によって着弾観測の困難な山岳地および雪中や泥中でも観測を容易にすることを目的とし、その量は砲弾に充填された炸薬の10%に相当する。この砲には標的指示用の砲弾(7.5cm lgr.Deut.)も存在し、空中と地上両方の標的を指示するために用いられる。その砲弾は爆発により内蔵された青の着色煙を噴出する子弾を機能させる。なお、砲弾の型番にはDeut.かまたはBlau.と表記される。75mm軽山岳歩兵砲の総重量はわずか880ポンド(約400kg)程度で、輸送のために6個の部品へと分解することができる。その際の部品の最大重量は165ポンド(約75kg)となる。
開戦後、120mm重迫撃砲を扱う小隊が重火器中隊に追加されている。ドイツ軍は大戦初期において120mm級の迫撃砲を装備しておらず、対ソ戦序盤で労農赤軍の装備する120mm重迫撃砲PM-38を鹵獲し、(12cm Gr.W.378)という型番を与えて組織的に運用した。また、同砲を複製して改良を加えた(12cm GrW.42)を開発、投入している。そのため、重迫撃砲小隊が編成に加わるのは少なくとも対ソ戦の開始された1941年の後半以降のことと思われる。この重迫撃砲は、重量が600ポンド(約280kg)、砲の全長は6フィート(約1830mm)、砲身長は5フィート(約1520mm)であり、従来型の迫撃砲と同じく二脚式の支持架と底盤を持つ。35ポンド(約16kg)の砲弾を発射し、その最大射程は3.1/2マイル(約7000m)に及ぶ。迫撃砲としては大型であり、輸送用の車輪を装着することができる。(12cm Gr.W.378)と(12 cm.GrW.42)の外見はほぼ同じであり、その相違点は後者の射程距離がわずかに長くなっている程度である。一般的な歩兵大隊が有する重火器中隊の指揮下にある重迫撃砲小隊にはこの砲が4門配備されており、山岳歩兵大隊における重火器中隊での運用もそれに準ずるものと考えられるが、120mm重迫撃砲を分解して駄獣の背で輸送することができるかは判然としない。そもそも砲の構造が山岳地での使用を想定した設計ではないため、実戦において山岳地での戦闘に投入されたかどうかも資料に乏しく詳しく言及することができない。砲が運用され始めた時期を鑑みるに、主として東部戦線(注釈)の平原に展開した山岳師団において運用されたのではないだろうか。だが、たとえその輸送経路が道路上か状態の良い山道のみに限定されたとしても、35ポンド(約16kg)の砲弾を3マイル(約4800m)先へと発射することのできる曲射弾道火器は山岳歩兵大隊の火力向上に大きく貢献したはずである。
41年に制式化して以降、重武器中隊の内包する対戦車小隊の装備は、4門の28/20mm重対戦車銃(2.8/2cm s.PzB.41)が主軸となっている。同銃が採用される以前にこの小隊が保有していた対戦車火器は野砲型のそれではなく、歩兵科中隊に存在する対戦車銃分隊に準じた対戦車ライフルなのではないかと考えられる。この28/20mm重対戦車銃は、銃という名称ではあるものの、通常の対戦車砲と同じく装甲防循と車輪を有する外見からわかる通り、実質的な対戦車砲である。28/20mm重対戦車銃はゲルリッヒ理論(※3)に基づいて設計され、その銃身の口径が銃口へ向かって28mmから20mmへと漸減している。ゲルリッヒ砲の弾頭は柔らかい金属の被膜を持ち、撃発後、砲身を通る際に砲身の内壁に被膜は押しつぶされ、望ましい弾道形状を維持したまま20mm口径まで縮小されて銃口へと至る。速い初速と貫徹力を持ち、その性能に比して砲一式が非常に小型であり、山岳地での運用に理想的な兵器である。28/20mm重対戦車銃の初速は毎秒4580フィート(約1390m)であり、4.6オンス(約130g)の弾頭は100ヤード(約91m)で30°傾斜した装甲2.7インチ(約6.9cm)、400ヤード(約366m)で同じ角度の装甲2.1インチ(約5.3cm)を貫通する。本銃の総重量は非常に軽く、わずか501ポンド(約227kg)でしかない。
山岳歩兵大隊の持つ作戦展開能力のさらなる向上のため、ドイツ軍は重火器中隊に工兵小隊も付属させている。小隊構成は、将校1名、下士官16名、兵員65名、駄獣23頭ではないかと推測される。その装備として、少なくとも空圧式浮橋、道路修繕機材一式、約230kgの解体用爆薬、そして手榴弾が含まれる。
重火器中隊は通常大隊指揮官の直接指揮下にあるため、時には山岳猟兵大隊本部中隊(Stabskompanie eines Gebirgsjägerbatallions)とも呼称される。
※1: 1つの信管に瞬発信管と延期信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によって機能を切り替えて使用する。瞬発信管と延期信管は両者とも着発信管に分類されるもので、前者が弾頭の衝突の瞬間に爆発させることを目的としている。後者は弾頭が装甲やトーチカのコンクリートなどを貫通した後に爆発させることを目的としており、装甲目標に対しては砲弾が外部で爆発しても被害を与え難いというのが遅延撃発の理由である。作動時間は目標により異なる。
※2: 1つの信管に時限信管と着発信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によって機能を切り替えて使用する。時限信管機能は弾丸が発射されてから任意に調定された時間の後に撃発させることを目的としている。時限信管自体は時計の構造に似た機械式、導火線などの一定の長さを持った火薬の燃焼時間を利用した火道式に分かれる。着発信管自体は瞬発、無延期、延期式に分かれていて同順に撃発時機が遅くなっている。複動信管においては時限信管機能よりも緻密に撃発時機を設定するために存在する。
※3: 砲身を先端部に向かって減口すると、砲弾に対する圧力が高まり、高初速を得ることができ、それによって飛躍的に貫通力が向上するというもの。
軽山岳歩兵砲小隊は、二門の75mm軽山岳歩兵砲(7.5cm l.Geb.I.G.18)を装備している。この兵器は、鋼製の縁取りを持つ車輪を備えた75mm軽山岳歩兵砲(7.5cm l.I.G.18)を山岳地向けに改装したものである。この砲が射撃に用いるのは榴弾(7.5cm Igr.18.Al)であり、二動式信管(※1)(Az.23.n/A)かまたは複動式信管(※2)(Dopp.Z.S/60s)かを選択できる。ドイツ軍では一般に砲弾の炸薬にアルミニウムが含まれている場合、それを示すために型番に"AI"の文字を加える。これは山岳砲兵の用いる砲弾にも一貫して見られる特徴である。炸薬に含まれたアルミニウムは炸裂時の閃光によって着弾観測の困難な山岳地および雪中や泥中でも観測を容易にすることを目的とし、その量は砲弾に充填された炸薬の10%に相当する。この砲には標的指示用の砲弾(7.5cm lgr.Deut.)も存在し、空中と地上両方の標的を指示するために用いられる。その砲弾は爆発により内蔵された青の着色煙を噴出する子弾を機能させる。なお、砲弾の型番にはDeut.かまたはBlau.と表記される。75mm軽山岳歩兵砲の総重量はわずか880ポンド(約400kg)程度で、輸送のために6個の部品へと分解することができる。その際の部品の最大重量は165ポンド(約75kg)となる。
開戦後、120mm重迫撃砲を扱う小隊が重火器中隊に追加されている。ドイツ軍は大戦初期において120mm級の迫撃砲を装備しておらず、対ソ戦序盤で労農赤軍の装備する120mm重迫撃砲PM-38を鹵獲し、(12cm Gr.W.378)という型番を与えて組織的に運用した。また、同砲を複製して改良を加えた(12cm GrW.42)を開発、投入している。そのため、重迫撃砲小隊が編成に加わるのは少なくとも対ソ戦の開始された1941年の後半以降のことと思われる。この重迫撃砲は、重量が600ポンド(約280kg)、砲の全長は6フィート(約1830mm)、砲身長は5フィート(約1520mm)であり、従来型の迫撃砲と同じく二脚式の支持架と底盤を持つ。35ポンド(約16kg)の砲弾を発射し、その最大射程は3.1/2マイル(約7000m)に及ぶ。迫撃砲としては大型であり、輸送用の車輪を装着することができる。(12cm Gr.W.378)と(12 cm.GrW.42)の外見はほぼ同じであり、その相違点は後者の射程距離がわずかに長くなっている程度である。一般的な歩兵大隊が有する重火器中隊の指揮下にある重迫撃砲小隊にはこの砲が4門配備されており、山岳歩兵大隊における重火器中隊での運用もそれに準ずるものと考えられるが、120mm重迫撃砲を分解して駄獣の背で輸送することができるかは判然としない。そもそも砲の構造が山岳地での使用を想定した設計ではないため、実戦において山岳地での戦闘に投入されたかどうかも資料に乏しく詳しく言及することができない。砲が運用され始めた時期を鑑みるに、主として東部戦線(注釈)の平原に展開した山岳師団において運用されたのではないだろうか。だが、たとえその輸送経路が道路上か状態の良い山道のみに限定されたとしても、35ポンド(約16kg)の砲弾を3マイル(約4800m)先へと発射することのできる曲射弾道火器は山岳歩兵大隊の火力向上に大きく貢献したはずである。
41年に制式化して以降、重武器中隊の内包する対戦車小隊の装備は、4門の28/20mm重対戦車銃(2.8/2cm s.PzB.41)が主軸となっている。同銃が採用される以前にこの小隊が保有していた対戦車火器は野砲型のそれではなく、歩兵科中隊に存在する対戦車銃分隊に準じた対戦車ライフルなのではないかと考えられる。この28/20mm重対戦車銃は、銃という名称ではあるものの、通常の対戦車砲と同じく装甲防循と車輪を有する外見からわかる通り、実質的な対戦車砲である。28/20mm重対戦車銃はゲルリッヒ理論(※3)に基づいて設計され、その銃身の口径が銃口へ向かって28mmから20mmへと漸減している。ゲルリッヒ砲の弾頭は柔らかい金属の被膜を持ち、撃発後、砲身を通る際に砲身の内壁に被膜は押しつぶされ、望ましい弾道形状を維持したまま20mm口径まで縮小されて銃口へと至る。速い初速と貫徹力を持ち、その性能に比して砲一式が非常に小型であり、山岳地での運用に理想的な兵器である。28/20mm重対戦車銃の初速は毎秒4580フィート(約1390m)であり、4.6オンス(約130g)の弾頭は100ヤード(約91m)で30°傾斜した装甲2.7インチ(約6.9cm)、400ヤード(約366m)で同じ角度の装甲2.1インチ(約5.3cm)を貫通する。本銃の総重量は非常に軽く、わずか501ポンド(約227kg)でしかない。
山岳歩兵大隊の持つ作戦展開能力のさらなる向上のため、ドイツ軍は重火器中隊に工兵小隊も付属させている。小隊構成は、将校1名、下士官16名、兵員65名、駄獣23頭ではないかと推測される。その装備として、少なくとも空圧式浮橋、道路修繕機材一式、約230kgの解体用爆薬、そして手榴弾が含まれる。
重火器中隊は通常大隊指揮官の直接指揮下にあるため、時には山岳猟兵大隊本部中隊(Stabskompanie eines Gebirgsjägerbatallions)とも呼称される。
※1: 1つの信管に瞬発信管と延期信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によって機能を切り替えて使用する。瞬発信管と延期信管は両者とも着発信管に分類されるもので、前者が弾頭の衝突の瞬間に爆発させることを目的としている。後者は弾頭が装甲やトーチカのコンクリートなどを貫通した後に爆発させることを目的としており、装甲目標に対しては砲弾が外部で爆発しても被害を与え難いというのが遅延撃発の理由である。作動時間は目標により異なる。
※2: 1つの信管に時限信管と着発信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によって機能を切り替えて使用する。時限信管機能は弾丸が発射されてから任意に調定された時間の後に撃発させることを目的としている。時限信管自体は時計の構造に似た機械式、導火線などの一定の長さを持った火薬の燃焼時間を利用した火道式に分かれる。着発信管自体は瞬発、無延期、延期式に分かれていて同順に撃発時機が遅くなっている。複動信管においては時限信管機能よりも緻密に撃発時機を設定するために存在する。
※3: 砲身を先端部に向かって減口すると、砲弾に対する圧力が高まり、高初速を得ることができ、それによって飛躍的に貫通力が向上するというもの。
2021年06月14日
山岳機関銃中隊について。
(1) 総則
山岳機関銃中隊(Gebirgsmaschinengewehrkompanie)は中隊本部班に3個重機関銃小隊と迫撃砲小隊、中隊段列を内包し、山岳歩兵に随伴可能な重機関銃(※1)および迫撃砲を装備している。通常これらの装備は駄獣によって運搬されるが、人力でも輸送された。頻繁に行われたわけではないが、これらの火砲は場合により榴弾砲などに置き換えられた。
山岳地帯における戦闘では、地形および機関銃の弾道特性により射撃の難易度が増し、平地と比べて戦闘に及ぼす影響も大きい。山地戦闘における散布角(Cone of fire)の観測は有効加害域(Zone of danger)を常に収束させ続けるために平地におけるそれよりも重視されるべきである(※2)。乾燥した岩場地形における射撃は観測がより容易となり、また風と気温が弾道特性に与える影響の適切な許容値の設定は射撃緒元調整の高速化および射撃の予想効率を向上させる。
通常、重機関銃は秘匿された射撃位置より直接射撃を行う。副次射撃位置(※3)は必ず用意せねばならないが、陣地の設営時には射撃位置の大幅な変更は時間の損失が大きくなることを念頭に置いておかねばならない。
迫撃砲小隊は小銃部隊による難踏破地形にも追随することができる。その弾道特性および高い破片効果により迫撃砲攻撃でのみ敵を攻撃可能な事態が発生し得る。その射撃陣地は完全に占領された敵の曲射弾道火器をも含め、攻撃側から遮蔽された場所を選定するべきである。迫撃砲の運用は野砲運用時の砲兵のそれに従い、野戦偵察の情報に基づいた前進と射法(※4)および運用時の防御体制等も迫撃砲に適応することができる。
山岳戦において、重機関銃は通常は小隊で運用される。仮に機関銃中隊の中で稼働可能な重機関銃が1丁のみとなった場合にあっても、重機関銃小隊は平地よりも部隊が戦闘主導権を握る一助となり得る。この理由により、重機関銃小隊指揮官は大隊の山岳での戦闘方針を常に念頭に置き的確な号令指示を行うとともに、射撃時の方針を与え指揮下の部隊を掌握しなければならない。戦闘の終盤において小隊構成が錯綜した状態であっても、機関銃中隊全体を掌握し火力を集中し効果的射撃を行わせることは中隊指揮官にとって前述の項と同程度に重要である。機関銃中隊指揮官は重要度の低い散開した目標に対しては散布射撃を実行することができる。部隊の独立行動を可能にするため迫撃砲小隊指揮官は山岳戦闘における戦闘原理を理解し効果的に迫撃砲を射撃できるようにならなければならない。
(2) 偵察と行軍
行軍間隔に関して山岳小銃中隊も通常部隊と同様に行動する。隷下兵員の体力消耗を避けるため可能な限り重機関銃は駄獣に搭載させる。長大な泥湿地道上においては重機関銃を駄獣から降ろし、人力にて運搬させる。中隊指揮官は損耗した部隊に対してある程度の行軍速度を求める場合、頻繁に荷物を降ろさせ、隷下の兵員に荷物量や行進速度の調整を適宜命令する。特に行軍の序盤に下達するのが望ましい。また、指揮官は兵員が斜面から滑落するのを防ぐため重装備の兵員の荷物を他の兵員に分散させる。輸送段列は本隊後方に位置し、命令指示の受領は的確に行わなければならない。荷物を降ろした駄獣は通常迂回路を前進し、本隊とは再度重装備品を各個に装備させる必要がある場合に合流する。重機関銃は敵の奇襲攻撃等から常に隊を防御せねばならない。敵の哨戒に反撃を行う際は常に展開位置(※5)を取る。
行軍中、迫撃砲小隊は増加の護衛要員を伴い、そしてもし可能であるなら射撃位置まで駄獣で運搬することが望ましい。山岳地帯において迫撃砲の射撃位置及び観測所の策定には長い時間を要する。戦闘状況下でこれらの策定や陣地構築をする場合効果的に掩護(※6)されていることが望ましい(※7)。迫撃砲小隊は時間の許す限り砲撃位置の策定をしなければならない。
良い地形条件の箇所に設置した重機関銃は本隊との十字火線を形成することができる。前方及び後方の小隊とも連携し相互に射撃支援を行う。主観測班の側方及び前方に配置された部隊は主観測陣地の火力支援に常に気をつけなければならない。重機関銃は小銃中隊における貴重なの支援用重火器であることから偵察を急ぎ行うことで作戦行動中の深刻な問題である早期の陣地転換と不必要な運動の抑止につながる。
登山経験が豊富で各種訓練を受けた兵員を中隊および小隊から抽出し、登山ルートの偵察を行わせる。シャベル等の機材の運搬・運用の必要性から、駄獣を伴った工兵がしばしばこの任務に割当てられる。
(3) 戦闘時の動き
重機関銃の設置場所が小銃部隊の前進経路に近い場合、連絡を密に取ることで相互の意思疎通を円滑に行って良好な側面射撃を実行できる。もし重機関銃班が綿密に射撃計画を練れない場合、友軍の頭上を超越して射撃を行うことが難しくなるので隠蔽を解除して小銃部隊の射撃位置に近づき敵の攻撃を撃退する。交戦位置から離れた場所に設置された重機関銃は掩体等の後方から超越して射撃を行うことができ、これは小銃や軽機関銃の射程距離よりも遠い距離から実行することができる。前述のように配置された重機関銃は小銃部隊の攻撃を谷超えの超過射撃によって支援することができ、もし小銃部隊が攻撃を中止して後退または包囲された場合にも援護射撃を行うことが可能となる。しかし、射撃要員による綿密な重機関銃の射撃は目標への観測や最前線との通信の確保を難しくするため、射撃機会が制限される。
峻険な山岳地帯において、標高の高い場所では通常隠蔽された射撃陣地より観測支援のもとで間接射撃が行われる。敵包囲を試みる小銃部隊を継続的に掩護するため、下命による発砲間隔や射撃位置の変更に応じて重機関銃は梯団に置き換えられなければならない。防衛戦において秘匿された重機関銃は、死界の防御を支援し可能なら側面から射撃を加えることが望ましい。重機関銃と他の重火器、特に高い曲射弾道性のある火器や砲兵との協力は山岳戦闘において平地戦闘よりも重要である。防衛戦闘に参加する少数の重火器を最大限に効果発揮させるための必要な協力を達成するためには事前の火力投射計画が不可欠である。
重機関銃は遅滞戦闘に適しているが、山岳地帯の戦闘においてはしばしば最大射程での射撃は困難とされる。山岳戦闘における重機関銃は山岳地帯特有の地形を原因とする視界の制限から、一時的に前線の中隊に糾合して運用される。この際の最小の部隊単位は通常半個小隊とする。山岳地帯における弾薬補充は難度が高く、機関銃の戦闘能力に対し平地よりも大きく影響を及ぼす。このため重機関銃小隊指揮官、運用班の班長および射手は弾薬の節用に関して訓練されていなければならない。また、重機関銃の運用に携わる指揮官および兵員は敵の脅威識別に関して精通し、指揮官が標的変更指示をした場合は速やかにこれと交戦しなければならない。
状況に応じて、迫撃砲は1門単体か部隊としてまとまって行動できる。戦闘においては榴弾砲(Artillery)火力を補い、前線部隊との緊密な連携に特に適している。迫撃砲は通常間接射撃を行うが、直接射撃は特に効果的な射撃を可能にする。秘匿された味方陣地が強襲攻撃を受けた際、迫撃砲は敵移動目標或いは目標地点に迅速な反撃射撃を行うことができる。この際、反撃射撃は味方の射撃陣地よりも高い標高にいる標的に対して特に効果的である可能性が高い。
最後に補足するが、再軍備後に国防軍としての山岳猟兵に関する規定書が編纂されたのは、山岳猟兵大隊に重火器中隊が編入される以前のことである。1935年当時のドイツ軍の編成は、大隊にとって機関銃中隊とともに迫撃砲中隊が必要であるとしていた。しかしながら、迫撃砲中隊の戦術原則は機関銃中隊の内包する迫撃砲小隊にも同様に適応され、すでに大隊内の組織として組み込まれていた。唯一の相違点として「行軍中、山岳迫撃砲中隊の指揮官はその場の最優位指揮官と共に行動する。そして戦闘の際には最優位指揮官かまたは中隊内の一個小隊と共に行動し、迫撃砲の発射を監督して最優位指揮官の戦術案に従った補給や交替が行われているかを確認する」という規定があり、これが機関銃中隊内の迫撃砲小隊指揮官の職務にどの程度適用されたのかは判然としない。
※1: 重機関銃分隊には、対空用三脚架と通常の三脚架が配備される。
※2: 弾着点については射爆理論より同一条件下でも同一着弾は不可能と結論づいており散布角を適宜調整しながら射撃する必要があるとされている。
※3: 敵に射撃位置を暴露せず被観測および反撃を避けながら効果的な火力発揮し続けるための予備射撃陣地。
※4: 戦闘時における射撃順序。
※5: 機関銃架を展開するだけのスペースという意味と思われる。
※6: 土嚢等の掩体で敵砲火等から防護されていること。
※7: 通常、迫撃砲や榴弾砲と言った間接射撃兵器には射程距離や弾道特性から、常にFO"Forward Observer"前進観測班、最前線で着弾を観測し伝える班、FDC"Fire Direction Center"射撃管制所、FOの着弾評価をもとに修正諸元を計算する班、Guns"Gun Line"砲列。FDCの修正情報をもとに射撃する班の3つによって運用される。この場合の観測所とはFOの潜伏する場所であろう。
山岳機関銃中隊(Gebirgsmaschinengewehrkompanie)は中隊本部班に3個重機関銃小隊と迫撃砲小隊、中隊段列を内包し、山岳歩兵に随伴可能な重機関銃(※1)および迫撃砲を装備している。通常これらの装備は駄獣によって運搬されるが、人力でも輸送された。頻繁に行われたわけではないが、これらの火砲は場合により榴弾砲などに置き換えられた。
山岳地帯における戦闘では、地形および機関銃の弾道特性により射撃の難易度が増し、平地と比べて戦闘に及ぼす影響も大きい。山地戦闘における散布角(Cone of fire)の観測は有効加害域(Zone of danger)を常に収束させ続けるために平地におけるそれよりも重視されるべきである(※2)。乾燥した岩場地形における射撃は観測がより容易となり、また風と気温が弾道特性に与える影響の適切な許容値の設定は射撃緒元調整の高速化および射撃の予想効率を向上させる。
通常、重機関銃は秘匿された射撃位置より直接射撃を行う。副次射撃位置(※3)は必ず用意せねばならないが、陣地の設営時には射撃位置の大幅な変更は時間の損失が大きくなることを念頭に置いておかねばならない。
迫撃砲小隊は小銃部隊による難踏破地形にも追随することができる。その弾道特性および高い破片効果により迫撃砲攻撃でのみ敵を攻撃可能な事態が発生し得る。その射撃陣地は完全に占領された敵の曲射弾道火器をも含め、攻撃側から遮蔽された場所を選定するべきである。迫撃砲の運用は野砲運用時の砲兵のそれに従い、野戦偵察の情報に基づいた前進と射法(※4)および運用時の防御体制等も迫撃砲に適応することができる。
山岳戦において、重機関銃は通常は小隊で運用される。仮に機関銃中隊の中で稼働可能な重機関銃が1丁のみとなった場合にあっても、重機関銃小隊は平地よりも部隊が戦闘主導権を握る一助となり得る。この理由により、重機関銃小隊指揮官は大隊の山岳での戦闘方針を常に念頭に置き的確な号令指示を行うとともに、射撃時の方針を与え指揮下の部隊を掌握しなければならない。戦闘の終盤において小隊構成が錯綜した状態であっても、機関銃中隊全体を掌握し火力を集中し効果的射撃を行わせることは中隊指揮官にとって前述の項と同程度に重要である。機関銃中隊指揮官は重要度の低い散開した目標に対しては散布射撃を実行することができる。部隊の独立行動を可能にするため迫撃砲小隊指揮官は山岳戦闘における戦闘原理を理解し効果的に迫撃砲を射撃できるようにならなければならない。
(2) 偵察と行軍
行軍間隔に関して山岳小銃中隊も通常部隊と同様に行動する。隷下兵員の体力消耗を避けるため可能な限り重機関銃は駄獣に搭載させる。長大な泥湿地道上においては重機関銃を駄獣から降ろし、人力にて運搬させる。中隊指揮官は損耗した部隊に対してある程度の行軍速度を求める場合、頻繁に荷物を降ろさせ、隷下の兵員に荷物量や行進速度の調整を適宜命令する。特に行軍の序盤に下達するのが望ましい。また、指揮官は兵員が斜面から滑落するのを防ぐため重装備の兵員の荷物を他の兵員に分散させる。輸送段列は本隊後方に位置し、命令指示の受領は的確に行わなければならない。荷物を降ろした駄獣は通常迂回路を前進し、本隊とは再度重装備品を各個に装備させる必要がある場合に合流する。重機関銃は敵の奇襲攻撃等から常に隊を防御せねばならない。敵の哨戒に反撃を行う際は常に展開位置(※5)を取る。
行軍中、迫撃砲小隊は増加の護衛要員を伴い、そしてもし可能であるなら射撃位置まで駄獣で運搬することが望ましい。山岳地帯において迫撃砲の射撃位置及び観測所の策定には長い時間を要する。戦闘状況下でこれらの策定や陣地構築をする場合効果的に掩護(※6)されていることが望ましい(※7)。迫撃砲小隊は時間の許す限り砲撃位置の策定をしなければならない。
良い地形条件の箇所に設置した重機関銃は本隊との十字火線を形成することができる。前方及び後方の小隊とも連携し相互に射撃支援を行う。主観測班の側方及び前方に配置された部隊は主観測陣地の火力支援に常に気をつけなければならない。重機関銃は小銃中隊における貴重なの支援用重火器であることから偵察を急ぎ行うことで作戦行動中の深刻な問題である早期の陣地転換と不必要な運動の抑止につながる。
登山経験が豊富で各種訓練を受けた兵員を中隊および小隊から抽出し、登山ルートの偵察を行わせる。シャベル等の機材の運搬・運用の必要性から、駄獣を伴った工兵がしばしばこの任務に割当てられる。
(3) 戦闘時の動き
重機関銃の設置場所が小銃部隊の前進経路に近い場合、連絡を密に取ることで相互の意思疎通を円滑に行って良好な側面射撃を実行できる。もし重機関銃班が綿密に射撃計画を練れない場合、友軍の頭上を超越して射撃を行うことが難しくなるので隠蔽を解除して小銃部隊の射撃位置に近づき敵の攻撃を撃退する。交戦位置から離れた場所に設置された重機関銃は掩体等の後方から超越して射撃を行うことができ、これは小銃や軽機関銃の射程距離よりも遠い距離から実行することができる。前述のように配置された重機関銃は小銃部隊の攻撃を谷超えの超過射撃によって支援することができ、もし小銃部隊が攻撃を中止して後退または包囲された場合にも援護射撃を行うことが可能となる。しかし、射撃要員による綿密な重機関銃の射撃は目標への観測や最前線との通信の確保を難しくするため、射撃機会が制限される。
峻険な山岳地帯において、標高の高い場所では通常隠蔽された射撃陣地より観測支援のもとで間接射撃が行われる。敵包囲を試みる小銃部隊を継続的に掩護するため、下命による発砲間隔や射撃位置の変更に応じて重機関銃は梯団に置き換えられなければならない。防衛戦において秘匿された重機関銃は、死界の防御を支援し可能なら側面から射撃を加えることが望ましい。重機関銃と他の重火器、特に高い曲射弾道性のある火器や砲兵との協力は山岳戦闘において平地戦闘よりも重要である。防衛戦闘に参加する少数の重火器を最大限に効果発揮させるための必要な協力を達成するためには事前の火力投射計画が不可欠である。
重機関銃は遅滞戦闘に適しているが、山岳地帯の戦闘においてはしばしば最大射程での射撃は困難とされる。山岳戦闘における重機関銃は山岳地帯特有の地形を原因とする視界の制限から、一時的に前線の中隊に糾合して運用される。この際の最小の部隊単位は通常半個小隊とする。山岳地帯における弾薬補充は難度が高く、機関銃の戦闘能力に対し平地よりも大きく影響を及ぼす。このため重機関銃小隊指揮官、運用班の班長および射手は弾薬の節用に関して訓練されていなければならない。また、重機関銃の運用に携わる指揮官および兵員は敵の脅威識別に関して精通し、指揮官が標的変更指示をした場合は速やかにこれと交戦しなければならない。
状況に応じて、迫撃砲は1門単体か部隊としてまとまって行動できる。戦闘においては榴弾砲(Artillery)火力を補い、前線部隊との緊密な連携に特に適している。迫撃砲は通常間接射撃を行うが、直接射撃は特に効果的な射撃を可能にする。秘匿された味方陣地が強襲攻撃を受けた際、迫撃砲は敵移動目標或いは目標地点に迅速な反撃射撃を行うことができる。この際、反撃射撃は味方の射撃陣地よりも高い標高にいる標的に対して特に効果的である可能性が高い。
最後に補足するが、再軍備後に国防軍としての山岳猟兵に関する規定書が編纂されたのは、山岳猟兵大隊に重火器中隊が編入される以前のことである。1935年当時のドイツ軍の編成は、大隊にとって機関銃中隊とともに迫撃砲中隊が必要であるとしていた。しかしながら、迫撃砲中隊の戦術原則は機関銃中隊の内包する迫撃砲小隊にも同様に適応され、すでに大隊内の組織として組み込まれていた。唯一の相違点として「行軍中、山岳迫撃砲中隊の指揮官はその場の最優位指揮官と共に行動する。そして戦闘の際には最優位指揮官かまたは中隊内の一個小隊と共に行動し、迫撃砲の発射を監督して最優位指揮官の戦術案に従った補給や交替が行われているかを確認する」という規定があり、これが機関銃中隊内の迫撃砲小隊指揮官の職務にどの程度適用されたのかは判然としない。
※1: 重機関銃分隊には、対空用三脚架と通常の三脚架が配備される。
※2: 弾着点については射爆理論より同一条件下でも同一着弾は不可能と結論づいており散布角を適宜調整しながら射撃する必要があるとされている。
※3: 敵に射撃位置を暴露せず被観測および反撃を避けながら効果的な火力発揮し続けるための予備射撃陣地。
※4: 戦闘時における射撃順序。
※5: 機関銃架を展開するだけのスペースという意味と思われる。
※6: 土嚢等の掩体で敵砲火等から防護されていること。
※7: 通常、迫撃砲や榴弾砲と言った間接射撃兵器には射程距離や弾道特性から、常にFO"Forward Observer"前進観測班、最前線で着弾を観測し伝える班、FDC"Fire Direction Center"射撃管制所、FOの着弾評価をもとに修正諸元を計算する班、Guns"Gun Line"砲列。FDCの修正情報をもとに射撃する班の3つによって運用される。この場合の観測所とはFOの潜伏する場所であろう。
2021年06月14日
山岳小銃中隊について。
(1) 分隊総則
道幅の狭い山道において、山岳小銃中隊(Gebirgsjägerkompanie)の各分隊は一列または二列に隊列を組んで行軍し、道の無い地形における隊列は一列のみとなる。隊列は行軍する地形によって適宜に伸縮(※1)し、兵員が登攀ペースを乱すことの無いよう隊列に充分な間隔が置かれる。登攀ペースを緩めるための指示は隊が登攀を開始する前に出される。兵員は自身の小銃を携行し、軽機関銃とその弾薬は地形と状況の許す限り駄獣によって輸送する。各兵員が携行している登山用装具着用の是非は分隊長が判断する。
軽機関銃を効果的に使用できる状況において、小銃分隊は側面もしくは高所からの超過射撃による支援が得られる。しかし斜面での攻撃において一般的に分隊は超過射撃を行うことができず、支援射撃は側面からか兵員同士の間隙からのみ実行可能である。攻撃の際、分隊の兵員同士の間隔は多分に地形の影響を受ける。しかし隊がまとまって行動するには兵員が互いに一定の範囲内に位置する必要があり、分隊長は常に指揮下の兵員を掌握しておかねばならない。なお、上記のように上り坂での攻撃では、分隊長はときに他隊の援護の下で兵員に休息を取らせ、自隊の士気と体力を維持する必要もある。平易な地形と比べ、難解な地形での作戦行動は時としてより良い奇襲の機会を生むが、効果的な敵の火線の下で難所を登攀することはできない。分隊が敵に接近するにつれ、反撃に対する警戒をより厳とする必要がある。山岳地帯において目的の不明瞭な攻撃は失敗すれば常に大きな損害をもたらし、ときに隊の壊滅へも繋がりうる。分隊員はこれを認識し、断固たる決意のもとに攻撃と浸透を実施せねばならない。
防衛戦闘において、しばしば分隊最後の兵員そして分隊最後の弾薬がその戦域の運命を決めうる。ごく限られた反撃の時期は、前進によって疲弊して携行火器の使用に支障をきたした攻撃側が防衛地点に接近した際に訪れる。分隊長は側面防御に適した位置で分隊主力とともに戦闘に備えることにより、戦力のわずかな威力行使で敵の接近を制することが可能となる。
※1: 原語ではこの伸縮をaccordion movementと表現しているが、平地における一般歩兵の常套として、一部の兵員が急激に加減速して行軍することは避けるべきとされる。急激に行進速度を前後させることによって体力の消耗が加速するとされているためである。ただし、通常特殊地形においては地形条件により兵員の行軍間隔を適宜に調節するものとされており、地形条件が平地よりも特殊なものが多い山岳地帯において特に注意するべきという項目と考えられる。
(2) 小隊総則
小隊本部において進路の設定と地形調査を行った後、小隊指揮官は小隊から適宜に兵員を抽出して必要と認められた進路の保全に従事させる。複雑な地形を越える際、小隊は隊列の伸縮による影響を打ち消すために内包する分隊間の間隔を増す必要がある。移動の容易な道や地形では駄獣が小隊のすぐ後ろに続くよう隊列を組む。険しい道や複雑な地形を行軍する際、とくに駄獣の歩行を助けるためにその負荷を兵員に分散する必要が生じるとき、駄獣は各分隊と共に行動する。小隊が隷下の段列を持たずして長時間にわたり前進しなければならない場合、小隊段列の指揮官はその後に小隊指揮官からの移動命令を受け取る。各分隊からの派遣された兵員によって小隊段列は増強され、敵に対する防御と駄獣や補給品の前線へ送り込むための補助が得られる。
小隊の前進を計画するにあたり、時としてそれぞれ別個の分隊が多様な種類の地形を越えて攻撃を遂行する必要に迫られることがある。小隊をまとめて指揮官の統制を行き届かせるためには、段階的に敵へと接近し、適宜に幾度か再編成を行うことが望ましいだろう。予備戦力は攻撃を担当する小隊の後に続き、その成功を利用し、そして敵の反撃を阻止するために密接かつ臨機応変な援護が可能な地形に雌伏する。重火器が攻撃を担当する小隊を支援できなくなり直ちに火力が必要となった場合、単一の指揮官の下で複数の軽機関銃が梯団を形成してより強力な火力を発揮する必要がある。作戦行動を展開していくにあたり、その初期段階において小隊指揮官は適切な時機に重火器と砲兵の支援を受けられるようにその目的を明らかにしておかねばならない。浸透に成功した後、小隊指揮官はその効果を高めるために次の行動を決定する必要がある。優勢な時機における小隊の果敢な前進は、部隊の戦功を驚異的なものへと導く。
防衛戦闘において、小隊は戦力を保持して防衛区域のうち敵脅威による圧迫が予想される地点のすぐ後方に、またはその側面に戦闘準備を整えた状態で待機する。もし敵が前線の防衛地点(forward defense position)を突破した場合、小隊内の予備戦力は小隊指揮官の裁量に従い、適宜に投入されて独立した奇襲攻撃を行う。小隊の予備戦力は戦闘中の小隊主力との間で綿密な交信を維持し、その交戦状況と地形に関する詳細な情報を持たなければならない。山岳地帯における独立した攻撃(Independent attack)および防衛任務を遂行するため、小隊には頻繁に機関銃、塹壕迫撃砲(trench mortar)と榴弾砲(artillery)(※2)が随行する。小隊指揮官は戦闘における先述した武器の使用法とその効果、そして明確に示された任務の中で如何にしてこれらを運用するかに熟達していなければならない。
※2: 中隊内の曲射弾道を持つ火砲全般を指すと思われる。
(3) 中隊総則
小隊の規定は中隊にも適用できる。通常の状況下では中隊の内包している小隊の間隔は約20歩分の距離を保つが、これは状況に応じて変更される。困難な状況化において中隊指揮官は適宜に命令を修正する。もし中隊段列が中隊に随行している場合、中隊指揮官は各小隊から兵員を抽出して難所における段列の補助に割り当てる。
攻撃の開始時より、中隊指揮官は自身の担当区域に中隊全体が効果的に配置できるかどうかを知る必要がある。無秩序な配置は重大な損失や逆転へと繋がる可能性を上昇させてしまう。通常、ひとたび中隊が攻撃のために前進を開始すると中隊指揮官は命令を変更することはできるが、すべての場合において無視できないほど長大な時間の空費を伴う。中隊の指揮下にある兵員は概して一定地点からは完全に視界に収めることのできないほど広大な地形を前進しなければならず、そのために中隊指揮官の影響力は非常に限定的なものとなる。別個に前進する部隊の歩調を合わせるためには慎重な計画と統制が必要となり、より上位の部隊にあたる大隊は中隊に適宜に通信要員とその装備の一部を割り当てて部隊の円滑な展開を援助することが求められる。
攻撃に際し、中隊は多くの場合には段階的に前進し、頻繁に隊形を改編して継続的に偵察を進める。中隊指揮官は攻撃の成否を担う鍵となる。指揮官は敵の意図を欺くために地形を利用し、敵が強襲を予想していない地点やその方向に沿って指揮下の部隊を誘導する必要がある。奇襲攻撃は日中よりも夜間に行う方が容易にその効果を発揮できるが、特別な訓練によってそれを行うに足る能力を得る必要がある。多くの場合、戦闘に適した区域は狭い侵入点のかなり後方に広がり、そのため防御を目的として効果的に配置できる敵の数が増強される。攻撃にあたって中隊の主力が浸透地点へと向かう場合、中隊の予備戦力が迅速かつ効果的に主力に続いて展開し得るかの可能性を考慮しておかねばならない。
防衛の際、中隊の担当区域の幅と地形の多様性はしばしば事前の命令発効や交信を維持するための手配を必要とする。もし中隊が充分な防衛体制を整えることができない場合、中隊指揮官は前哨拠点を強化し、側面火点を増強し、秘匿された機関銃や火砲(silent machine guns and artillery)(※3)を設置することによって可能な限り敵の侵入する危険性を減じなければならない。多くの場合、中隊指揮官は逆勾配に主要な抵抗線を敷くことによって効果的な防衛戦闘を展開することができる。また、敵に通過を強いる交通点や高所を射界に収める複数の火点を設定することも可能となる。
一定の条件下において、中隊は全面的または部分的に機動防御を行う必要に迫られる可能性がある。たとえば、特に敵からの観測射撃にさらされる中隊の担当する防衛区域の重要地点に前哨陣地のみを設け、そして主力部隊を伏せておき躍進してくる敵を攻撃する準備を整えることが望ましい場合がある。この種の防衛のためには、防衛区域の幅が広すぎるのは望ましくなく、即応が可能な重火器によって支援されている必要がある。中隊の防御と攻撃の両方は常に密接な関係を持つ。また、中隊指揮官が広範囲に渡って防衛線を任されているとき、予備戦力を編成して申し分のない場所に配置することは少なくない困難が伴うが、最終的な予備戦力は決して欠くべきではない。
※3: (A "silent" machine gun or "silent" artillery)のように各種兵器を示す単語の前にsilentの語が入る場合、これは抵抗線の付近かまたはその側面の隠蔽された地点に置かれた兵器である。敵が至近距離(point-blank range)、つまりコリオリ力に影響されない直接照準が可能な範囲に入るまで射撃せずに待機する。
道幅の狭い山道において、山岳小銃中隊(Gebirgsjägerkompanie)の各分隊は一列または二列に隊列を組んで行軍し、道の無い地形における隊列は一列のみとなる。隊列は行軍する地形によって適宜に伸縮(※1)し、兵員が登攀ペースを乱すことの無いよう隊列に充分な間隔が置かれる。登攀ペースを緩めるための指示は隊が登攀を開始する前に出される。兵員は自身の小銃を携行し、軽機関銃とその弾薬は地形と状況の許す限り駄獣によって輸送する。各兵員が携行している登山用装具着用の是非は分隊長が判断する。
軽機関銃を効果的に使用できる状況において、小銃分隊は側面もしくは高所からの超過射撃による支援が得られる。しかし斜面での攻撃において一般的に分隊は超過射撃を行うことができず、支援射撃は側面からか兵員同士の間隙からのみ実行可能である。攻撃の際、分隊の兵員同士の間隔は多分に地形の影響を受ける。しかし隊がまとまって行動するには兵員が互いに一定の範囲内に位置する必要があり、分隊長は常に指揮下の兵員を掌握しておかねばならない。なお、上記のように上り坂での攻撃では、分隊長はときに他隊の援護の下で兵員に休息を取らせ、自隊の士気と体力を維持する必要もある。平易な地形と比べ、難解な地形での作戦行動は時としてより良い奇襲の機会を生むが、効果的な敵の火線の下で難所を登攀することはできない。分隊が敵に接近するにつれ、反撃に対する警戒をより厳とする必要がある。山岳地帯において目的の不明瞭な攻撃は失敗すれば常に大きな損害をもたらし、ときに隊の壊滅へも繋がりうる。分隊員はこれを認識し、断固たる決意のもとに攻撃と浸透を実施せねばならない。
防衛戦闘において、しばしば分隊最後の兵員そして分隊最後の弾薬がその戦域の運命を決めうる。ごく限られた反撃の時期は、前進によって疲弊して携行火器の使用に支障をきたした攻撃側が防衛地点に接近した際に訪れる。分隊長は側面防御に適した位置で分隊主力とともに戦闘に備えることにより、戦力のわずかな威力行使で敵の接近を制することが可能となる。
※1: 原語ではこの伸縮をaccordion movementと表現しているが、平地における一般歩兵の常套として、一部の兵員が急激に加減速して行軍することは避けるべきとされる。急激に行進速度を前後させることによって体力の消耗が加速するとされているためである。ただし、通常特殊地形においては地形条件により兵員の行軍間隔を適宜に調節するものとされており、地形条件が平地よりも特殊なものが多い山岳地帯において特に注意するべきという項目と考えられる。
(2) 小隊総則
小隊本部において進路の設定と地形調査を行った後、小隊指揮官は小隊から適宜に兵員を抽出して必要と認められた進路の保全に従事させる。複雑な地形を越える際、小隊は隊列の伸縮による影響を打ち消すために内包する分隊間の間隔を増す必要がある。移動の容易な道や地形では駄獣が小隊のすぐ後ろに続くよう隊列を組む。険しい道や複雑な地形を行軍する際、とくに駄獣の歩行を助けるためにその負荷を兵員に分散する必要が生じるとき、駄獣は各分隊と共に行動する。小隊が隷下の段列を持たずして長時間にわたり前進しなければならない場合、小隊段列の指揮官はその後に小隊指揮官からの移動命令を受け取る。各分隊からの派遣された兵員によって小隊段列は増強され、敵に対する防御と駄獣や補給品の前線へ送り込むための補助が得られる。
小隊の前進を計画するにあたり、時としてそれぞれ別個の分隊が多様な種類の地形を越えて攻撃を遂行する必要に迫られることがある。小隊をまとめて指揮官の統制を行き届かせるためには、段階的に敵へと接近し、適宜に幾度か再編成を行うことが望ましいだろう。予備戦力は攻撃を担当する小隊の後に続き、その成功を利用し、そして敵の反撃を阻止するために密接かつ臨機応変な援護が可能な地形に雌伏する。重火器が攻撃を担当する小隊を支援できなくなり直ちに火力が必要となった場合、単一の指揮官の下で複数の軽機関銃が梯団を形成してより強力な火力を発揮する必要がある。作戦行動を展開していくにあたり、その初期段階において小隊指揮官は適切な時機に重火器と砲兵の支援を受けられるようにその目的を明らかにしておかねばならない。浸透に成功した後、小隊指揮官はその効果を高めるために次の行動を決定する必要がある。優勢な時機における小隊の果敢な前進は、部隊の戦功を驚異的なものへと導く。
防衛戦闘において、小隊は戦力を保持して防衛区域のうち敵脅威による圧迫が予想される地点のすぐ後方に、またはその側面に戦闘準備を整えた状態で待機する。もし敵が前線の防衛地点(forward defense position)を突破した場合、小隊内の予備戦力は小隊指揮官の裁量に従い、適宜に投入されて独立した奇襲攻撃を行う。小隊の予備戦力は戦闘中の小隊主力との間で綿密な交信を維持し、その交戦状況と地形に関する詳細な情報を持たなければならない。山岳地帯における独立した攻撃(Independent attack)および防衛任務を遂行するため、小隊には頻繁に機関銃、塹壕迫撃砲(trench mortar)と榴弾砲(artillery)(※2)が随行する。小隊指揮官は戦闘における先述した武器の使用法とその効果、そして明確に示された任務の中で如何にしてこれらを運用するかに熟達していなければならない。
※2: 中隊内の曲射弾道を持つ火砲全般を指すと思われる。
(3) 中隊総則
小隊の規定は中隊にも適用できる。通常の状況下では中隊の内包している小隊の間隔は約20歩分の距離を保つが、これは状況に応じて変更される。困難な状況化において中隊指揮官は適宜に命令を修正する。もし中隊段列が中隊に随行している場合、中隊指揮官は各小隊から兵員を抽出して難所における段列の補助に割り当てる。
攻撃の開始時より、中隊指揮官は自身の担当区域に中隊全体が効果的に配置できるかどうかを知る必要がある。無秩序な配置は重大な損失や逆転へと繋がる可能性を上昇させてしまう。通常、ひとたび中隊が攻撃のために前進を開始すると中隊指揮官は命令を変更することはできるが、すべての場合において無視できないほど長大な時間の空費を伴う。中隊の指揮下にある兵員は概して一定地点からは完全に視界に収めることのできないほど広大な地形を前進しなければならず、そのために中隊指揮官の影響力は非常に限定的なものとなる。別個に前進する部隊の歩調を合わせるためには慎重な計画と統制が必要となり、より上位の部隊にあたる大隊は中隊に適宜に通信要員とその装備の一部を割り当てて部隊の円滑な展開を援助することが求められる。
攻撃に際し、中隊は多くの場合には段階的に前進し、頻繁に隊形を改編して継続的に偵察を進める。中隊指揮官は攻撃の成否を担う鍵となる。指揮官は敵の意図を欺くために地形を利用し、敵が強襲を予想していない地点やその方向に沿って指揮下の部隊を誘導する必要がある。奇襲攻撃は日中よりも夜間に行う方が容易にその効果を発揮できるが、特別な訓練によってそれを行うに足る能力を得る必要がある。多くの場合、戦闘に適した区域は狭い侵入点のかなり後方に広がり、そのため防御を目的として効果的に配置できる敵の数が増強される。攻撃にあたって中隊の主力が浸透地点へと向かう場合、中隊の予備戦力が迅速かつ効果的に主力に続いて展開し得るかの可能性を考慮しておかねばならない。
防衛の際、中隊の担当区域の幅と地形の多様性はしばしば事前の命令発効や交信を維持するための手配を必要とする。もし中隊が充分な防衛体制を整えることができない場合、中隊指揮官は前哨拠点を強化し、側面火点を増強し、秘匿された機関銃や火砲(silent machine guns and artillery)(※3)を設置することによって可能な限り敵の侵入する危険性を減じなければならない。多くの場合、中隊指揮官は逆勾配に主要な抵抗線を敷くことによって効果的な防衛戦闘を展開することができる。また、敵に通過を強いる交通点や高所を射界に収める複数の火点を設定することも可能となる。
一定の条件下において、中隊は全面的または部分的に機動防御を行う必要に迫られる可能性がある。たとえば、特に敵からの観測射撃にさらされる中隊の担当する防衛区域の重要地点に前哨陣地のみを設け、そして主力部隊を伏せておき躍進してくる敵を攻撃する準備を整えることが望ましい場合がある。この種の防衛のためには、防衛区域の幅が広すぎるのは望ましくなく、即応が可能な重火器によって支援されている必要がある。中隊の防御と攻撃の両方は常に密接な関係を持つ。また、中隊指揮官が広範囲に渡って防衛線を任されているとき、予備戦力を編成して申し分のない場所に配置することは少なくない困難が伴うが、最終的な予備戦力は決して欠くべきではない。
※3: (A "silent" machine gun or "silent" artillery)のように各種兵器を示す単語の前にsilentの語が入る場合、これは抵抗線の付近かまたはその側面の隠蔽された地点に置かれた兵器である。敵が至近距離(point-blank range)、つまりコリオリ力に影響されない直接照準が可能な範囲に入るまで射撃せずに待機する。
2018年06月02日
足音の原因。
そういえば、ブログなんてものをやっていた。
趣味仲間から続きは書かないのかと訊かれてね、それまで綺麗さっぱり忘れていたよ。
思い返してみると、最後に記事を継ぎ足したときの僕は、まだ学生の身分だったはずだ。それが今や社会に出てしばらくが経ち、一丁前にストレスで体調を崩したりしている。
まったく時間が過ぎていくのは速いね。
まあ、まだ昔に戻りたいなんて生意気言う歳でもないから、話を進めよう。
近況というか、しばらく前に友人と連れ立って山へ登ってきたんだ。
あー、何故登るのかと尋ねられても、残念ながら僕には〝そこに山があるからだ〟なんて気の利いた返しはできない。僕は惨めなくらい体力がなくてね、デスクワークの日々だし、この頃更なる下降の兆しを自覚して怖くなったんだ。要は身体を動かしたかったんだよ。
なかなかに急なコースを歩いたから、良い運動になった。おかげで翌日はベッドから起き上がれなくなったんだけど。
ところで、僕はこの時に初めて現代の登山靴というものを履いた。友人からの借り物だけど、サイズは同じでね。いやもうびっくりするくらい軽いし、心地よいフィット感。カルチャーショックだよ。僕はナーゲル靴しか知らないからね。感動に打ち震えて、すげえすげえと連呼していたら、友人から『一世紀近く前の靴と比べるんじゃねえ』と怒られてしまった。
さて、今回のテーマは靴だ。無論、僕の愛するドイツ山岳猟兵はキャラバンだのスカルパだのは履いていない。使う度に僕の足が悲鳴をあげる、重く堅い鋲だらけのナーゲル靴が彼らの標準だった。それに使う鋲を入手したので見せびらかそうと思う。
先に、ナーゲル靴に用いる3種の鋲、トリコニー、ムッガー、クリンカーを紹介しておこうか。
まずはトリコニー。ノコギリ状の形をしている。取り付ける靴の位置によって基部の形状も違い、それに応じてナンバーが振ってある。鋼鉄製で非常に硬いらしい。戦後スイス軍のナーゲル靴ぐらいでしか見たことないな。
次にムッガー。丸い中鋲で、靴底の中央や踵に用いる。岩とも馴染みやすく、他の鋲の補強にも使える。
最後にクリンカー。一番写真で確認しやすい鋲だと思う。主として靴の縁に打ち込むもので、軟鉄で作ってあり摩滅しやすいけど摩擦力を生む。爪先鋲としても優秀。
いずれも材料が鉄である以上、重くなるのは避けられないのであるからして、支持性を失わず且つ少数の打鋲に留めるよう工夫しなきゃいけない。
そして僕の手元にきたのはこれ、クリンカーが10個ばかり。
資料によれば、打ちっ放しとなる『ショート打ち』と靴底のコバに貫通させて折り曲げる『リング打ち』という二つの打鋲法があるけど、僕の知る実物や写真に写ったナーゲル靴では大抵より脱落しにくい『リング打ち』がなされていた。
ナーゲル靴自体は鋲が付いた状態で支給されたそうだけど、当時の登山家と同じように山岳猟兵でも各人ごとに鋲配置のカスタムがあったみたい。山によって配置を変えるとも聞いたし。
せっかくなので僕も打鋲に挑戦しようと思うんだ。レプリカのナーゲル靴はどうにも鋲の間隔が広くてね。
...まあ、全部打ち終えるまでは長くかかりそうだけどさ。
打ち終えたらまた記事にしようかな。
趣味仲間から続きは書かないのかと訊かれてね、それまで綺麗さっぱり忘れていたよ。
思い返してみると、最後に記事を継ぎ足したときの僕は、まだ学生の身分だったはずだ。それが今や社会に出てしばらくが経ち、一丁前にストレスで体調を崩したりしている。
まったく時間が過ぎていくのは速いね。
まあ、まだ昔に戻りたいなんて生意気言う歳でもないから、話を進めよう。
近況というか、しばらく前に友人と連れ立って山へ登ってきたんだ。
あー、何故登るのかと尋ねられても、残念ながら僕には〝そこに山があるからだ〟なんて気の利いた返しはできない。僕は惨めなくらい体力がなくてね、デスクワークの日々だし、この頃更なる下降の兆しを自覚して怖くなったんだ。要は身体を動かしたかったんだよ。
なかなかに急なコースを歩いたから、良い運動になった。おかげで翌日はベッドから起き上がれなくなったんだけど。
ところで、僕はこの時に初めて現代の登山靴というものを履いた。友人からの借り物だけど、サイズは同じでね。いやもうびっくりするくらい軽いし、心地よいフィット感。カルチャーショックだよ。僕はナーゲル靴しか知らないからね。感動に打ち震えて、すげえすげえと連呼していたら、友人から『一世紀近く前の靴と比べるんじゃねえ』と怒られてしまった。
さて、今回のテーマは靴だ。無論、僕の愛するドイツ山岳猟兵はキャラバンだのスカルパだのは履いていない。使う度に僕の足が悲鳴をあげる、重く堅い鋲だらけのナーゲル靴が彼らの標準だった。それに使う鋲を入手したので見せびらかそうと思う。
先に、ナーゲル靴に用いる3種の鋲、トリコニー、ムッガー、クリンカーを紹介しておこうか。
まずはトリコニー。ノコギリ状の形をしている。取り付ける靴の位置によって基部の形状も違い、それに応じてナンバーが振ってある。鋼鉄製で非常に硬いらしい。戦後スイス軍のナーゲル靴ぐらいでしか見たことないな。
次にムッガー。丸い中鋲で、靴底の中央や踵に用いる。岩とも馴染みやすく、他の鋲の補強にも使える。
最後にクリンカー。一番写真で確認しやすい鋲だと思う。主として靴の縁に打ち込むもので、軟鉄で作ってあり摩滅しやすいけど摩擦力を生む。爪先鋲としても優秀。
いずれも材料が鉄である以上、重くなるのは避けられないのであるからして、支持性を失わず且つ少数の打鋲に留めるよう工夫しなきゃいけない。
そして僕の手元にきたのはこれ、クリンカーが10個ばかり。
資料によれば、打ちっ放しとなる『ショート打ち』と靴底のコバに貫通させて折り曲げる『リング打ち』という二つの打鋲法があるけど、僕の知る実物や写真に写ったナーゲル靴では大抵より脱落しにくい『リング打ち』がなされていた。
ナーゲル靴自体は鋲が付いた状態で支給されたそうだけど、当時の登山家と同じように山岳猟兵でも各人ごとに鋲配置のカスタムがあったみたい。山によって配置を変えるとも聞いたし。
せっかくなので僕も打鋲に挑戦しようと思うんだ。レプリカのナーゲル靴はどうにも鋲の間隔が広くてね。
...まあ、全部打ち終えるまでは長くかかりそうだけどさ。
打ち終えたらまた記事にしようかな。
2016年08月18日
BSスペシャル〜大自然の不思議〜
第一次大戦期から現代まで、ほぼその姿を変えぬまま生きている山岳帽。その知られざる生態に密着します。
取材班は軍装マニアの家で繁殖期を迎えた山岳帽のつがいと出会いました。
初期の生地特有の青みがかかったウール製のメスにオスが求愛しています。メスには台布等、オーストリア式の特徴が見てとれます。オスは国防軍第2山岳師団の師団章の付いた立派な個体です。同色エーデルワイス章が付いた山岳帽同士の繁殖はとても稀有な例と言えるでしょう。
日付が変わる頃、交尾が始まりました。交尾は数時間続き、オスメスともに体力の消耗は避けられません。
山岳帽のつがいは一度結ばれた相手を一生の伴侶とし、産卵も共同で行います。このつがいはフルプメス社製アッシェンブレンナー型ピッケルのシャフトを産卵場所に選んだようです。見るからに頑丈そうなシャフトは大切な卵をしっかりと保持してくれることでしょう。
つがいが去り、ピッケルのシャフトには卵が産み付けられていました。数日後、この卵が孵化すると新たな山岳帽がこの世に生まれ出づるのです。
数日が経ち、一つの卵の孵化が近付いているようです。次第に膨張しているのが見てとれます。
ついに孵化の瞬間を迎えました。元気な連邦軍の山岳帽です。まだ幼生のため、特徴的な左側面のエーデルワイス章はまだありません。
山岳帽の幼生が去っていきます。このような命の営みが何世代にも渡って、連綿と続けられてきたのです。
~おしまい~
Posted by Kaspar Lueder at
18:54
│Comments(0)
2016年08月18日
背嚢の中身が一目瞭然! プロも認めた装備収納の強い味方! これであなたも片付け上手に!〜山ぐらしスペシャリスト〜
僕が普段から接しているメディアによれば、窓の外は今日も今日とて茹だるような暑さに充ち満ちているらしい。
幸いにして、ここ最近の僕は文明の利器が吐き出すイイ感じに冷却された空気に包まれながら生活しているのであるからして、そんな過酷な環境は窓の厚みに隔てられた世界の話でしかないのだけれど。
むしろ寝冷えして鼻がズルズル。なかなか温度調節がうまくいかなくてね。
さて、お世辞にも頭を捻ってあるとは言い難いうたい文句の添えられたゲームか何かの広告が勝手にポップアップしていることからわかるように、ここに何か書き込むのは随分久しぶりなんだけれど、今回ばかりは理由もなくサボっていたわけじゃない。長かった僕のモラトリアムもいよいよ終盤に差し掛かっているわけで、世間がポケモンGOとやらで賑わっている間、僕は言うなれば内定GOに勤しんでいたんだ。実際、携帯をかざしてポケモンを探すように、やたら読み込みの遅いGoogleマップで面接会場を探して街中をフラフラしていたからね。
・・・聞いてはいたけど、なかなかに辛い経験だった。とくに、リクルートスーツなる見るも無残な布切れに身を包まねばならなかったことが、だ。スーツの形式は数十年ほど流行を遡るべきだね。
まあ過ぎたことだ、今はもうどうでもいい。こんなハズレくじに採用通知を送り付けてきたオンシャーに同情しつつ、残り少ない学生生活を満喫しようと思うんだ。というわけで、そろそろ今回のネタを紹介するとしよう。
見たとおり、小汚い布袋の4枚セット。こう見えてもれっきとした山岳猟兵アイテムだったりするんだ。
どの色に何を詰めるかはまだわかっていないのだけれども、これは山岳背嚢の中身を整理するための仕分け袋、スタッフバッグ。
ここしばらく登山記の類いを手垢で汚した記憶もないし、安楽椅子探偵ならぬ安楽椅子登山家にもなりきれない僕が言っても説得力に欠けるかもしれないけれど、なかなか重宝するアイテムなんだとか。
写真の4色で1セットらしい。ドイツ軍装備品図鑑とかなんとかいうタイトルが付いていそうなブ厚い資料本でようやく取り上げられるようなシロモノだし、ドイツ軍ふぁんの間でもあんまり知名度は高くなさそうだ。
官給品なのか私費購入品なのかは判然としないけれど、微妙に裁断やサイズが違ったり、スタンプの類いも無いので個人的には私費購入品なんじゃないかと思ってる。
材質は基本コットン、なんじゃないかな。ものによってレーヨンが混じってるような。とりあえず、生地質というか手触りや色合いは全部違う。表面はとくに模様は無し。
中身を判別するためのタブは青と赤のやつの生地質が独特。写真の通りハトメ付きで口が絞れるようになっていて、このハトメ式の他に後期型らしい巾着式があったりする。
口を絞る機能が省略された歩兵用も存在するみたいだけれど、歩兵科の背嚢事情には明るくないし4つもスタッフバッグを使うような背嚢ってあったのかしらん、と疑問符を取り払えないでいるので詳しい人がいたらぜひご教授願いたいところ。
このアイテムに関して言えば、存在を知ってから入手するまでに一番手間と時間が掛かっているかもしれなくて、なかなかに感慨がある。色々あって青タブの袋だけダブっちゃったし。あとは、中に詰めるべき小物類を地道に集めていくとしようか。
・・・いったい何を詰めればいいのだろうね。物品リストとか欲しい。使用例というか、使っている写真が見つからないんだよ。つらい。
次の記事あたりから趣向を変えて、セルビア軍装備とか載せてみようかしらん。気分転換に集め始めたら止まらなくなってしまってね。
2016年03月30日
あの映画でイーストウッドがドイツ兵に突き刺してたピッケルのメーカーを僕はまだ知らない。
どうも、カスパルです。
更新したと思ったらあっという間に放置状態に戻っていたよ。まったくもって時間が過ぎていくのは速いね。
あぁ、嫌だ嫌だ。
このところイベントが重なったりしていたし、入手したアイテムも多々あるので記事のネタにはしばらく困りそうにない。小出しにして延命を図るとしようか。
そうそう、少し前にふらりと立ち寄った古本屋で『荒鷲の要塞』の文庫本を見つけたんだ。ちょうど『アラスカ戦線』を読み始めたばかりだからしばらくは枕元に積まれる運命になるだろうけど、一も二もなく購入してみた。
ざっくばらんに云えば、ドイツ軍に囚われた将官を救出するべく英国の特殊部隊がアルプス山中の要塞に潜入するという内容の物語で、『ナヴァロンの要塞』や『H.M.S.ユリシーズ』と並ぶアリステア・マクリーンの傑作冒険小説だ。映画化もされていて、こちらも名作。テーマ曲がかっこいい。
ちなみに、潜入チームへ参加する米陸軍レンジャー役でクリント・イーストウッドが登場しているのだけど、恐ろしくドイツ軍装が似合っていないのが見どころの一つだと勝手に思ってる。
考証はさておき、舞台がアルプス山中の要塞なもんだから出てくるドイツ兵の右袖には大抵白い花が咲いていたりする。あと制帽にもね。軍装趣味を嗜んでらっしゃる年配の方々に山岳猟兵のウケが良いのは、どうやらこの映画の存在が大きいようだ。かくいう僕も、決定打とはいかないまでも、少なからず影響を受けているかもしれない。
こんなシーンがある。
動いている乗り物の上での格闘はハリウッドアクションの定番な気がするけど、この映画では絶賛昇降中のロープウェイの上でそんなことをやっている。高所恐怖症じゃなくても心臓に悪い場面。そして雪山登攀を助けてくれる頼もしい味方であるはずのピッケルが都合のいい近接武器に成り果ててしまうんだ。意味はお分かりいただけるだろう。
・・・まったく、こんな使われ方をしていたらピッケルが税関で止められるようになってしまうじゃないか、やめておくれ。
さて、ピッケル。ピッケルだ、今回のお話は。
しばらく前に、ただのヴィンテージピッケルとして出品されていたものを手頃な価格で落札したんだ。刻印に惹かれてね。
全体。シャフトに巻き付いてるリングは脱落防止用のハンドストラップ。
シャフトにV?と彫り込んであるけど意味はわからない。イニシャルかしらん。
ヘッドはスラリと長く、ピックからブレードまで綺麗な曲線が走ってる。ヴィンテージピッケルを美術品として見る蒐集家がいるのも頷けるね。
詳細だけども、刻印のとおりフルプメス社製のアッシェンブレンナー型。フルプメス社はオーストリアのチロル地方にあるメーカーで、モデル名は同国で当時活躍していた著名な登山家に由来するとか。とりあえず30年代にはもう存在している型で、ベストセラーになったらしい。たしかに、絵に描いたような形のピッケルではあるね。
さて、このアッシェンブレンナー型なんだけれど、フルプメス社以外に同じチロル地方にあるスチュバイ社でも生産されていたりする。僕の経験則ではオークションサイトなんかで山岳猟兵のピッケルを検索して出てくるのは十中八九スチュバイ社のものだったね。
ただ、ちょっと調べたところスチュバイ社がアッシェンブレンナー型の生産を始めたのは戦後にフルプメス社から版権を譲渡されてから、みたいな話にたどり着いたんだ。まあメーカー史あたりを参照してみないとはっきりしたことはわからないけど、火の無いところに煙は立たぬと云うし、しばらくはフルプメス社のものを集めていこうと思う。できれば官給品としての出自があるものが欲しいな。
裏返してみよう。まだ他の刻印がある。
このちんまりしてて掠れかけているDRGMという刻印なんだけれども、
〝Deutsches Reich Gebrauchs Muster〟
の略だそうで、ドイツ帝国の商標登録みたいなものらしい。戦後は文字が変わってブンデス何ちゃらになるから戦前から戦中にかけて生産されたっていう証拠になるんじゃないかな。
そしてここからがが肝心なんだけど、オーストリアにあるメーカーの生産品にこのDRGMナンバーが打ってあるということは、だ。
もしかしたら、
オーストリア併合後の生産品だということなのかもしれない。
ニヤニヤが止まらない。
そういえばピッケルの刻印に関して、ヴァッフェンアムトは打ってあるものなのか否かで悩んでいたんだけど、どうやら戦後に業者が勝手に当時のピッケルに彫り込んで売っていた、みたいな話を聞いたのでやっぱりアムトは必要ないのかもしれない。もちろん、ピッケルの支給経路を調べて裏を取らないといけないけど。
...まったく迷惑なことをしてくれたものだよね。
ほいじゃあ、今回はそろそろおーしまい。次回は山岳背嚢かな。イベントレポでもいいかも。