2021年06月15日

山岳重火器中隊について。

山岳歩兵大隊は一般の歩兵大隊と比べて戦力と火力の増強を受けているが、それはひとえに重火器中隊(Gebirgsschwerekompanie)の存在に依るものである。この中隊は中隊本部、通信班、中隊段列、それに基幹戦力として軽山岳歩兵砲小隊、工兵小隊、対戦車小隊で構成されている。重火器中隊に集中している火力は、連隊が持つ歩兵火器の範疇において、山岳歩兵大隊の中でも非常に独立性が高いものである。
軽山岳歩兵砲小隊は、二門の75mm軽山岳歩兵砲(7.5cm l.Geb.I.G.18)を装備している。この兵器は、鋼製の縁取りを持つ車輪を備えた75mm軽山岳歩兵砲(7.5cm l.I.G.18)を山岳地向けに改装したものである。この砲が射撃に用いるのは榴弾(7.5cm Igr.18.Al)であり、二動式信管(※1)(Az.23.n/A)かまたは複動式信管(※2)(Dopp.Z.S/60s)かを選択できる。ドイツ軍では一般に砲弾の炸薬にアルミニウムが含まれている場合、それを示すために型番に"AI"の文字を加える。これは山岳砲兵の用いる砲弾にも一貫して見られる特徴である。炸薬に含まれたアルミニウムは炸裂時の閃光によって着弾観測の困難な山岳地および雪中や泥中でも観測を容易にすることを目的とし、その量は砲弾に充填された炸薬の10%に相当する。この砲には標的指示用の砲弾(7.5cm lgr.Deut.)も存在し、空中と地上両方の標的を指示するために用いられる。その砲弾は爆発により内蔵された青の着色煙を噴出する子弾を機能させる。なお、砲弾の型番にはDeut.かまたはBlau.と表記される。75mm軽山岳歩兵砲の総重量はわずか880ポンド(約400kg)程度で、輸送のために6個の部品へと分解することができる。その際の部品の最大重量は165ポンド(約75kg)となる。

開戦後、120mm重迫撃砲を扱う小隊が重火器中隊に追加されている。ドイツ軍は大戦初期において120mm級の迫撃砲を装備しておらず、対ソ戦序盤で労農赤軍の装備する120mm重迫撃砲PM-38を鹵獲し、(12cm Gr.W.378)という型番を与えて組織的に運用した。また、同砲を複製して改良を加えた(12cm GrW.42)を開発、投入している。そのため、重迫撃砲小隊が編成に加わるのは少なくとも対ソ戦の開始された1941年の後半以降のことと思われる。この重迫撃砲は、重量が600ポンド(約280kg)、砲の全長は6フィート(約1830mm)、砲身長は5フィート(約1520mm)であり、従来型の迫撃砲と同じく二脚式の支持架と底盤を持つ。35ポンド(約16kg)の砲弾を発射し、その最大射程は3.1/2マイル(約7000m)に及ぶ。迫撃砲としては大型であり、輸送用の車輪を装着することができる。(12cm Gr.W.378)と(12 cm.GrW.42)の外見はほぼ同じであり、その相違点は後者の射程距離がわずかに長くなっている程度である。一般的な歩兵大隊が有する重火器中隊の指揮下にある重迫撃砲小隊にはこの砲が4門配備されており、山岳歩兵大隊における重火器中隊での運用もそれに準ずるものと考えられるが、120mm重迫撃砲を分解して駄獣の背で輸送することができるかは判然としない。そもそも砲の構造が山岳地での使用を想定した設計ではないため、実戦において山岳地での戦闘に投入されたかどうかも資料に乏しく詳しく言及することができない。砲が運用され始めた時期を鑑みるに、主として東部戦線(注釈)の平原に展開した山岳師団において運用されたのではないだろうか。だが、たとえその輸送経路が道路上か状態の良い山道のみに限定されたとしても、35ポンド(約16kg)の砲弾を3マイル(約4800m)先へと発射することのできる曲射弾道火器は山岳歩兵大隊の火力向上に大きく貢献したはずである。

41年に制式化して以降、重武器中隊の内包する対戦車小隊の装備は、4門の28/20mm重対戦車銃(2.8/2cm s.PzB.41)が主軸となっている。同銃が採用される以前にこの小隊が保有していた対戦車火器は野砲型のそれではなく、歩兵科中隊に存在する対戦車銃分隊に準じた対戦車ライフルなのではないかと考えられる。この28/20mm重対戦車銃は、銃という名称ではあるものの、通常の対戦車砲と同じく装甲防循と車輪を有する外見からわかる通り、実質的な対戦車砲である。28/20mm重対戦車銃はゲルリッヒ理論(※3)に基づいて設計され、その銃身の口径が銃口へ向かって28mmから20mmへと漸減している。ゲルリッヒ砲の弾頭は柔らかい金属の被膜を持ち、撃発後、砲身を通る際に砲身の内壁に被膜は押しつぶされ、望ましい弾道形状を維持したまま20mm口径まで縮小されて銃口へと至る。速い初速と貫徹力を持ち、その性能に比して砲一式が非常に小型であり、山岳地での運用に理想的な兵器である。28/20mm重対戦車銃の初速は毎秒4580フィート(約1390m)であり、4.6オンス(約130g)の弾頭は100ヤード(約91m)で30°傾斜した装甲2.7インチ(約6.9cm)、400ヤード(約366m)で同じ角度の装甲2.1インチ(約5.3cm)を貫通する。本銃の総重量は非常に軽く、わずか501ポンド(約227kg)でしかない。

山岳歩兵大隊の持つ作戦展開能力のさらなる向上のため、ドイツ軍は重火器中隊に工兵小隊も付属させている。小隊構成は、将校1名、下士官16名、兵員65名、駄獣23頭ではないかと推測される。その装備として、少なくとも空圧式浮橋、道路修繕機材一式、約230kgの解体用爆薬、そして手榴弾が含まれる。
重火器中隊は通常大隊指揮官の直接指揮下にあるため、時には山岳猟兵大隊本部中隊(Stabskompanie eines Gebirgsjägerbatallions)とも呼称される。


※1: 1つの信管に瞬発信管と延期信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によって機能を切り替えて使用する。瞬発信管と延期信管は両者とも着発信管に分類されるもので、前者が弾頭の衝突の瞬間に爆発させることを目的としている。後者は弾頭が装甲やトーチカのコンクリートなどを貫通した後に爆発させることを目的としており、装甲目標に対しては砲弾が外部で爆発しても被害を与え難いというのが遅延撃発の理由である。作動時間は目標により異なる。

※2: 1つの信管に時限信管と着発信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によって機能を切り替えて使用する。時限信管機能は弾丸が発射されてから任意に調定された時間の後に撃発させることを目的としている。時限信管自体は時計の構造に似た機械式、導火線などの一定の長さを持った火薬の燃焼時間を利用した火道式に分かれる。着発信管自体は瞬発、無延期、延期式に分かれていて同順に撃発時機が遅くなっている。複動信管においては時限信管機能よりも緻密に撃発時機を設定するために存在する。

※3: 砲身を先端部に向かって減口すると、砲弾に対する圧力が高まり、高初速を得ることができ、それによって飛躍的に貫通力が向上するというもの。





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Posted by Kaspar Lueder at 23:57│Comments(0)考証
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